明日世界が終わるなら


1.真選組編

「あ? なんだそれ。明日世界が終わるなら?」
「そうそう。この雑誌のもしもこういう状況になったらあなたはどうするみたいなコーナーなんですよ。副長と沖田隊長ならどうします?」

そう言いながら暇そうにテレビを見ていた二人にも見えるように山崎は雑誌を広げてみせる。

「投稿して採用されたら記念品もらえるんですよ。でも今回のお題はどうしても思いつかなくて。なんか俺はそんなこと言われてもおろおろして終わっちゃうんじゃないかなー」
「あー山崎はそんな感じだねィ」
「で、お二人ならどうします?」

とは言ったものの沖田は雑誌を勝手に奪い取って別の記事を読みはじめてしまったので、土方のほうを見て言う。すると至極当然のように土方は即答した。

「んなもん考える必要ねぇよ」
「え、なんでです? 真選組が何とかするからとか?」
「ばーか。違ぇよ」

吸い終わった煙草を灰皿に捨て、もう片方の手で沖田の頭を小突く。

「総悟だったらどうする?」
「遊園地。隊士全員土方さんの奢りで遊園地行きましょうぜ。ほら土方さん、これこれ。なんかおもしろそうなアトラクできたって」
「ほら、俺が考えるだけ無駄だろ。俺の意見は通んねぇから」
「ああ、なるほど」

沖田から無理やり見せられた雑誌をしかめっつらで土方も見る。山崎はそんな二人に苦笑した。

「そーだ。あと花火。隊のみんなで花火でもやりましょうや」

あどけなさの残る笑顔で、打ち上げ花火を背景に取られた夜の遊園地の写真を指差す沖田。
土方は雑誌を取り上げ、山崎のほうに投げて返した。

「んなもんわざわざ世界が終わる前の日まで待たなくていいだろ。やりたいなら今やるぞ今。おら山崎、ちょっくら行って花火と煙草買って来いや」
「よっしゃ。近藤さんに行って大砲出してもらおっと」
「総悟、それ花火に使わないから。お前がここでそれ使うと真選組限定で世界が終わっちまうから」
「そしたら遊園地連れて行ってくれるんでしょう」
「おい山崎。とりあえずこいつが退屈する前にとっとと買って来い!」
「は、はい!」

こうして山崎の雑誌がもとで今宵は「真選組を守れ! 沖田隊長の暇を潰そう花火大会」が開催されることになった。



2.万事屋編

「どうしよう銀ちゃん。世界って明日で終わっちゃうみたいアル」
「違うよ神楽ちゃん。この雑誌はもしもという仮定の話だから実際には終わらないんだって」
「メガネの言うことは信用ならないネ」

なにやらにぎやかな声を聞きつけ、一人でこっそり甘いものを食べていた銀時もソファの後ろに立って話の種となっている雑誌を覗き込んだ。そういえば神楽が昼間定春の散歩の帰りに雑誌を拾ってきていたのを思い出した。

「何見てんだお前ら」
「なんかもしも世界が明日終わるならどうするかっていう雑誌の企画みたいですよ」
「ふーん。世界の終わりねぇ。で、お前らだったらどーすんの」

銀時はめざとく投稿して採用されたら記念品がもらえるという記事を見つけて、二人の案からいいほうを採用して勝手に自分の名前で投稿しようともくろんでいた。
まずはじめに挙手したのは神楽。

「はい、じゃあ神楽」
「他の星に逃げる!」
「論外。はい次、新八」

終わるまでの短い時間をどう過ごすかという題にこれでは身もふたもないので却下。
次は新八に話をふる。

「僕はやっぱり姉上と一緒に過ごすかな。あとお通ちゃんの最後のライブコンサートに行きたいです」
「お前それ両方やんの? 姉上と一緒にライブ? ファンクラブのお前を見たら引くよ絶対」

たぶんあの姉なら迷わず新八を殴り倒すだろう。世界が終わる前にこの手で弟にとどめを刺すくらいするかもしれない。
しかし銀時としては正論を述べたまでだが、むっとして新八は切り返す。

「そういう銀さんはどうするんですか」
「あー俺? 俺は家財道具全部売っ払って死ぬほど糖分摂取するかな」
「銀ちゃん。わたしも混ぜてほしいヨ!」
「お前なんか甘いものに埋もれて一人のたれ死んでしまえ」

今までで一番夢に溢れていると銀時自身は思っているのに、なぜか非難の嵐。神楽の趣旨から外れた答えや新八のマニアックな答えよりずっと雑誌社も喜ぶのではなかろうか。
とりあえず二人を押しとどめ、銀時は口を開く。


「なんだよ三人で全身甘くなって死ぬのも悪かねーだろ。最高じゃねーか」


もしそんな日が来るのだとしたら、もちろんその時は三人一緒だ。三人でいつも通り馬鹿騒ぎして、死ぬほど食べてから死ねたらいい。
神楽の手から雑誌をとり、葉書きなんて家にあったかなとか思い探しはじめる。結局二人の案は駄目なので自分の案で送ろう。

「ねぇ銀ちゃん。ここ売ったらどこで甘いもの食べるアルか?」
「んなもんどこでもいいだろが。ババアんとこでも真選組と花見したとこでもそこらのゴミ捨て場でも」
「僕ゴミ捨て場は嫌です。あと肉とかつけてください」
「あ、てめっ。裏切り者か? そうだな。そうなんだな?」

その時、遠くで花火の音がした。

「ん? 今日は祭りなんてあったっけ?」
「銀ちゃんわたしかき氷食べたいアル!」
「いや金ねぇよ。でもとりあえず行ってみっか。大串君でもいたら奢らせよう」
「そうですね。そうしましょう」

その頃にはもう雑誌のことなんて三人とも忘れていて、頭の中はまだ見ぬ祭の屋台のことでいっぱいだった。



3.攘夷派編

エリザベスが雑誌を拾ってきた。

「ヅラぁ、なんかおもしろいの載ってるぞ」

お茶を用意している桂の背中にそう声をかけたのは他所様のアジトで我が物顔でくつろいでいる高杉である。

「ヅラじゃない桂だ。3分でできる革命レシピでもあったか?」
「違ぇよそれ同考えても検閲対象だろ。読者投稿企画で、もし明日世界が終わるならどうしますかだとさ」
「む、それは困るな。幕府めちょっと目を離した隙にいったいなにをしでかしたんだ」

それとも過激攘夷派の仕業か。
どちらにしろ桂の革命が為される前に世界が終わってしまうのは非常に困る。これはなんとかせねばならないと思い、桂は眉間にしわを寄せた。
しかしそれに呆れかえって高杉は雑誌を手渡す。

「だからそういう雑誌の企画なんだって。もしもだよ、もしも。もし明日世界が終わりで、どうしようもないとしたらヅラならどうする?」

上目づかいに桂を見上げ、口許に笑みを作る。勝手に急須をかたむけて空の湯飲みに茶を注ぎ、口をつける。なにやら考え込んでいた桂はその頃になってようやく口を開く。

「どうするもこうするも、俺はここにいるだけだ」

残りの湯飲みに茶を注ぎ、一つをエリザベスに、もう一つは自分の前に置く。
どうするかいろいろとシュミレートしてみたが、やはり結論はこれしかなかった。しかし高杉はその答えに不満があるらしく口を尖らせる。

「なんだよそれ。だってあと24時間で世界終わるんだぞ。お前は世界の終わりをこの化け物と過ごすのか。つっまんねぇの」

そう言って自分にも注げとばかりに、もう飲み終わった茶をずいと桂の前に突きつける。桂はそれに苦笑しつつもおかわりをついでやった。

「だってその時はお前と坂本がたぶん俺のところに来るだろう?」

自分も湯飲みに少し口をつけ、目だけは高杉のほうを見る。高杉はその視線を受け止めて、しかしなぜかすぐに逸らす。

「……まぁ、たぶん来るけど」

とだけ小さくもごもごと呟いた。
その声にかぶさるように、遠くのほうで花火が上がった。小さな窓からちょうど空に華がひらくのが見えた。

「祭りか? 一般人の遊びにしちゃあ派手だな」

高杉の言葉どおり、打ち上げ花火は次々と空に花を咲かせる。それに混じって大砲のような音もした気がしたがきっと気のせいだろう。

「ヅラ、ちょっと行ってみようぜ」
「ヅラじゃない桂だ。お前お尋ね者の自覚はあるか?」
「大丈夫だって。ちょっとだけだから」
「仕方ないな。本当に少ししか付き合わないからな」

しつこくせがむ高杉に根負けして、桂は溜息をついて立ち上がる。エリザベスもその後に続いた。

「そうだ。さっきの話だが、やっぱお前のところには三人までしか集まらねぇかな」
「だろうな」

二人以外にも花火の音に惹き付けられるように二人三人と付近の住民が姿を現す。ちらほらと見える人の波のちょうどまんなかを堂々と歩きながら、高杉は花火を見上げて言った。

「あいつはどうせ呼んでも来ないからそんときゃこっちから行くか。そんで革命とかそういうのみんな忘れて楽しく飲もうぜ」
「それはいいな。世界の終わりまで待たずとも、今の世界が変わったらぜひやろう」
「そうだな。それまで生き抜こうぜ」

道はやがて人に溢れ、全ての人が一箇所に向けて歩き出す。
その方向にあるのは日本の夜明けかもしれないと、言ったのはどちらだったろうか。




短発集3。まさか銀魂サイトを作るとは思わな(略)。
夜なのになぜか新八がいて不思議です。給料もらってないのに残業です。


05/09/26-29