預言者は騙る 「もしもし、お前さん」 雑踏を縫うようにして、歩いていた沖田を呼び止めたのは見知らぬ老婆だった。 紫の布をかぶせた小さな机の小さな座布団には老婆同様薄汚い水晶玉が大事そうに置かれている。その出で立ちからして占い師のようだった。 「俺のことかィババア」 「そうじゃ。お前さんじゃ」 老婆は本当に見えているのか怪しい小さな目で沖田を見上げ、手招きをする。どう考えても沖田は老婆と面識がないし無視してもよかったのだが無視して騒がれても後味が悪いので素直に従うことにした。 老婆は沖田をじろじろと見つめた後、悲痛な面持ちで首を振った。 「なんとも哀れな。お前さんは二十歳になる前に死ぬじゃろう」 その言葉に特に驚くでもなく、沖田は無表情に老婆の顔を見つめ返す。 しばらくそうしていたのだが、やがておもむろに握っていた右手を老婆の前で開いた。手からばらばらと小銭が散らばり、紫の布の上に思い思いに散らばった。 「おお、運命は今変わった! お前さんはきっと長生きするじゃろう!」 沖田はその言葉を最後まで聞かず、呆れの溜息をついて再び雑踏へ溶けていった。 「ばっからし」 〜+〜 「総悟、俺の分は」 「すいやせん俺はカキ氷にマヨネーズかけてくれなんて恥ずかしくて言えなかったんでさァ」 巡回中に土方に奢らせるのも沖田が土方に嫌がらせをするのもいつものことなので、土方は何も言わずただ苦い笑いを浮かべた。文句を言うかわりに手で沖田の氷を一掴みして、自分の口に放り込む。 「土方さん。あんたより先に俺が死んだらどうする?」 カキ氷を食べたり食べられたりしながらの巡回中、少し前を歩く土方に沖田は尋ねた。 「あ? なんだそれ」 「俺が死んだらあんた泣く?」 視界の隅に少しこちらを振り返った土方を捉えるが、沖田はカキ氷に集中していて顔を上げない。 「泣いてほしいのか?」 「んー、いらねェや」 外に溢さないよう氷をうまく削りながら、沖田は答える。 「どちらかといえば死体も私物も全部燃やして灰にして、河原にでも捨てられちまやァいい。そんでついでに土方さんとか近藤さんとか俺を知ってるみんなの記憶から俺がなくなっちまえばいい。うん。それがいい最高だ」 一通り沖田が言い終わるまで黙って聞いていた土方だが、沖田の言葉が途切れるのと同時に呆れて吐息を漏らした。 「お前さ、普通俺のこと忘れないでとか言わね?」 「だって俺がいねーのに他の人の中に俺の幻影が居座ってるのってなんか気持ち悪ぃんだもん。なんか偽物の俺っぽくてやだ」 「だからって全部消えてなくなれってのも極端だろ」 「そうですかィ?」 言いながらようやくカキ氷を突き崩し、シャクシャクとシロップの海に沈めてかき混ぜる。そしてそれをぐいっと一気に飲み干し近くの屑篭に放り捨てた。 それからようやく土方のほうを見て、特になんでもないことのように付け足す。 「あ、でもこれ俺の遺言だから」 「ばーか。誰が守るか、んなもん。そんなに早く死ぬ奴ぁ士道不覚悟で蹴っ飛ばしてやる」 「これが本当の死人に鞭打つですかね」 沖田はそう言ってケラケラと笑い、手に残っていたストローの先端を切ったスプーンを土方の頬に刺した。残っていたカキ氷のシロップが土方の頬を少しだけ濡らす。スプーンを取り上げようとする手を沖田はおもしろがってかわした。そんな沖田に苦い顔で、土方は手の甲で頬を拭う。 「そういうお前は俺が死んだら俺に何してくれんだよ」 「なんもしてやんねー」 沖田は立ち止まる。土方もつられて止まる。 不敵な笑みを浮かべながら、沖田はその喉元にスプーンの切っ先をつきつけた。 「だってあんたが死ぬときは俺があんたを殺したときだ。そんときゃ副長の座をのっとって墓前でザマーミロって言ってやるよ」 でももしどちらかが先に死なねばならないのなら、俺はあんたより先に死にたい。 置いてかれるくらいなら待ってるほうがいいから。 その言葉は言えばきっと怒られるから、墓場まで持って行こうと思う。 死にネタとかそういうつもりで書いたわけではないですよ。死亡フラグ立ってませんよ。 手相占いはあるけど水晶玉の占い師はまだ見たことがないのですが本当にいるのでしょうか。 05/10/11 |