ペーパー再録

通販のときににつけていたペーパーの再録です。オフ本の内容の小ネタとなっております。土沖以外もあるのでご注意ください。

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1.空中楼閣(土沖+銀 真選組の人たちが万事屋を雇ってドラマを作っているという設定。前編シーン6より)

 黒いスーツに身を包んだ隊士たちをしたがえて、神楽は土方に向かって言った。

「わたしの名は神楽。……えっと、逃げ、逃げ? んっと、食い逃げしに来たネ!」
「違ぇだろ。逃げた猫だろそこは」

 十回目のNGに、最早怒る気すら起きない。どうすれば十回連続で同じようなミスを連発できるのかと、イラつきを通り越して呆れの気持ちで思う。誰だこの小娘をメインキャラに抜擢したのは。明らかにミスキャストではないか。

「チャイナさんしっかりしてくださいよ。じゃあ皆さん、また元の位置に戻って同じところからお願いしまーす」

 山崎の仕切りでぞろぞろと外に出て行く連中を見送って、土方自身もベランダに戻る。冷たい風を肌で感じ、煙草が恋しくなって舌先で唇を舐める。スタート合図を待ちながら何気なく耳を澄ますと隣の部屋から忍びやかな笑い声が聞こえてきた。

「いやー沖田君て肌きれいだよねぇ。あ、こんなところにキスマークはっけーん。何これメイク? こんなところにメイク?」
「え、めめ、メイクですぜメイク。まさか本物のわけないだろィ!」
「とか言っちゃってメメメイクってなんだよ。めっちゃ動揺してんじゃねーか。ほら、白状しないとこうだぞぉ」
「あっ、やだ旦那。くすぐってぇよ!」

 沖田の笑い声と共に、ベッドの軋む音が聞こえる。確か二人は土方と神楽のシーンが撮り終わるまで待機のはずだが、飽きて勝手に遊び始めてしまったらしい。
 しかもこれは、結構よからぬ遊びのような気配がする。まさかとは思いつつ、土方はベランダに身を乗り出して中を覗き込もうとしたが、カーテンが風に揺れているだけで中の様子までは窺うことができない。

「くすぐったい? じゃあここはどうよ」
「んっ、あぁっ、なんかきもちい、やっ駄目でさァそこは!」
「そんなこと言ってすっげぇよさそうな顔してるぜ?」
「っ、あぅ、もっと強く……!」

 もう我慢できない。土方は山崎のスタート合図を無視してベランダを飛び越えた。

「てっめぇ似非金髪! 総悟に何してやがるテメェェェェ!」

 壊れんばかりの勢いでベランダのドアをぶち開け部屋に押し入る。しかし握り締めた拳は、部屋の中の光景を見て一時停止した。

「……あれ?」

 確かに沖田は半裸でベッドに横たわっていて、銀時がその上に跨っている。しかし沖田はうつ伏せで、情交というよりはむしろ、マッサージをしているような。

「……何してんのお前ら」
「マッサージやさんごっこでさァ。チャイナの鳥頭のせいで暇なんでィ」

 あんた撮影は、と沖田は不思議そうに言った。土方の恥ずかしい勘違いなどまるで気がついていないらしい。しかし銀時のほうはやはり違ったらしく、意地悪くニヤリと笑った。

「土方くぅん。どんないやらしー想像してたんですかぁ?」
「なっ、違ぇよ! 俺はただ、うるさいから注意しに来ただけで」
「その割にはすごい剣幕だったぜ。なあ沖田君?」
「つーかだから撮影は? 俺の番まだ?」
「知るか! やっぱやめだこんな企画!」

 撮影なんてもうやっていられるか。土方は心底思った。大体いくら女性隊士がいないからってホモドラマ作って警察のPRだなんて成功するはずがない。こんなものは時間と撮影費の無駄だ。それに沖田の方は遊びかもしれないが、相手がいつ本気になるか知れないこの状況を放っておけるわけがなかった。というよりこの男が沖田の上に跨って肌に触っているということそれ自体がもう許せない。

「てめぇ、5秒以内にそこどかねぇと強制わいせつ罪で斬るぞ」
「何言ってんだオイ、沖田君嫌がってねぇだろ? お前は永遠にシーン6やり続けてろコノヤロー」
「おうやってやろうじゃねぇか。そのかわりお前は永遠にくたばれ! 餓死してしまえ!」
「んだとコラァァァ! お前飢えの恐怖を知らねぇからそんなこと言えんだぞこの公務員めが!」
「なんだやるかコラ? 相手になってやろうじゃねぇか。山崎ィ! 俺の刀持ってこい5秒以内で!」
「よしじゃあ新八、こっちは3秒以内に木刀持ってこい!」
「じゃあこっちは1秒だ!」
「……だから、撮影は?」

 結局この日は土方と銀時の喧嘩に更に神楽と沖田までが加わって、カメラが巻き添えで粉々になったので翌日全て撮り直す羽目になった。
 ちなみにこれで通算6回目の撮り直しで、この企画自体が間違っているとこの頃には誰もが悟っていたが、散々予算を使った手前もう引き下がれなかった。

 こうして撮影は一歩進んで三歩下がりつつ進んでいくのである。



2.東京アンチヒーローズ(土沖 時間軸は本編後)

 いつの間にかうとうととしていたらしい。目を開けると暗い部屋を電気スタンドの灯りだけが仄かに照らしている。脚の短いテーブルに肘をつき、ノートと睨めっこする沖田の背中がすぐそこにあった。

「お前、まだやってたの」
「寝てていいですぜ。明日テストなんでさァ」

 こちらを振り向きもせずに答える。それが土方にはおもしろくなくて、じっと沖田を見つめた。振り向け振り向けと心の中で念をこめる。

 奇妙なものだと思った。かつて真選組だった頃は土方が背中に視線を感じる側だったのだ。かまえ遊べとうるさい沖田に口だけで相手をして、頭と手は目の前の仕事に集中する。それがもうずいぶん昔のことのように感じられて不思議だった。
 忙しいというのがどうして理解できないのだろう。そう苛立つことも何度かあった。しかし今にして思えばそんなものは土方の独りよがりな感情だった。あの時の自分だって沖田の気持ちを理解しようなどとはしなかったのだから。

「総悟、こっち向いて」
「邪魔しないでくだせェ」
「お前も俺が振り向かないのが寂しかったんだろ」

 反応はあった。前よりも少し髪の長くなった頭が揺れる。徐に教科書とノートを閉じ、手が電気スタンドに伸びた。闇の訪れ。

「今頃気付いたんですかィ」

 ぎしりとベッドが軋む。上に乗られていることはすぐにわかったけれど目が急な闇に慣れないせいでどんな表情をしているかまではわからなかった。

「謝ったほうがいい?」

 手探りで頭を見つけ、引き寄せる。のしかかられた体重も体温も何もかもが心地いい。

「もう時効でさァ」

 許してあげる。囁いた唇は土方のそれの少し外側に落ちる。沖田のほうもまだ見えていないのかもしれない。
 やがて沖田はごろんと転がりいつもの自分のポジションに収まった。ばさばさと何かが落ちる音。たぶんさっきの教科書やノートたちだろう。それから軽い音がして小さな光が帰ってきた。沖田が自分の携帯をいじっているのだ。何気なく覗き込むとアラームをセットしているらしかった。

「いいのか勉強」
「へい。もう眠いし集中切れたんで明日ちょっと早起きしてやりまさァ」
「え、寝ちゃうの?」

 意外すぎてつい素直に声に出したら笑われてしまった。だって、上に乗ってくるからてっきり。もうすっかりその気だったのに。

「あんたどうせ明日も仕事だろィ。テスト終わるまでおあずけでさァ」
「ひどい。あんまりだ」

 ちょっと本気で落ち込んだらよしよしと頭を撫でられた。こんなところまで立場が逆転してしまったんだなあとしみじみ思う。そんな変化を悪くないと思っている自分に驚いた。

「おやすみなさい土方さん」
「おやすみ総悟」

 昨日と同じ言葉を唱えて同じように目を閉じる。明日もまた同じように平和に終われればいい。

 こんな日が、ずっと続けば。そう思えることを幸せに感じた。



3.手を繋ごう(銀万銀+高 本編その後)

 インターホンに呼ばれてドアを開けてみれば懐かしい顔があった。

「久しいな変態教師。突然だが今晩泊めろ」

 卒業から四年と少し経つのだったか。悔しいがその間に身長は追い抜かれてしまったらしい。怪しいグラサンと時代遅れのヘッドホンはあの頃から変わっておらず、懐かしいじゃなくてうざいだと自分の中で訂正した。

「同じ穴のムジナが何言いやがる。泊めねえよ帰れ」
「拙者を引きずり込んだのはどこの誰だか言ってみろ。一晩くらいいいでござろう。何なら変わってやるぞポジション」
「うるっせええええ! つかうぜぇよ上下とかそういう話じゃねぇんだよ! うちもう既に一人いるから場所ねえの帰って!」

 昔はただの可愛げのないひねたガキだったののに、どうしてこんなわけのわからない感じに育ってしまったのだろう。自分にも大いに責任はある気がして憂鬱になった。もう昔の話とはいえ、過ちは今も変わらず過ちだ。

「既に一人って貴様、まさかまた懲りもせず生徒に手を出したでござるか。この変態め」
「ちっげぇよ! 俺もお前で懲りたよ流石に! 今のはなんてぇの、ペットと飼い主みたいな?」
「……それ、悪化してるでござろう」
「…………」

 そんなことない。今のはちょっと言い方がよくなかっただけだ。そう口にしかけたところで、その一人が騒ぎを聞きつけ部屋から顔を覗かせた。

「おい銀八、今何時だと思ってんだ。うるせーぞ近所迷惑……」

 高杉の言葉は万斉を見るや途中でどこかへ消えてしまった。不気味な沈黙が流れる。二人は互いを見て愕然としていて、一人理由のわからない銀八は何事かと交互に見やった。

 突如、万斉がくるりと背を向ける。しかし高杉の方が僅かに速く、逃げようとしたその肩をガシッと捕まえた。

「万斉、てめぇどの面下げて俺の前に現れてんだ?」
「し、晋助……待て、落ち着け」

 初恋を経てずいぶん温厚になった(沖田談)といわれる高杉が、久々にどす黒いオーラを漂わせている。万斉の方はというとこれまた珍しく、冷や汗などをたらしていた。
 さてこの二人はどういう関係だっただろうかと考える。思い出せない。確か従兄弟とか、そんな感じだったような違うような。

「……って銀八貴様! まさか晋助に調教プレイとか」
「はっ……? なっ、気色悪いこと言ってんじゃねぇ!」

 本気で嫌がって真っ青になって、高杉がべこっとぶん殴った。ちょっと心外だ。でもおもしろいなあこいつら。感動して、泊めてやってもいいかもしれないと思い直すことにする。

「卒業と同時に姿晦ましやがって俺がどんだけびっくりしたと思ってやがる」
「晋助、拙者認めんぞ! この変態だけは絶対やめておけ」
「だーから、指一本触れてねえって言ってんだろが。つかお前さあ、俺の番号着拒だろ。あ、梅酒飲む? いいよ代金は後払いで」
「誰が払うかァァァ! 死ね! いや拙者が今この場で殺してやる!」
「てっめ人の話聞けよ万斉! 今までどこで何してやがった。あぁ?」

 ああ、今日はなんて賑やかな夜だろう。万斉に高杉がしめ技をかけ出したのを放置して、銀八はいそいそと梅酒を取りに行った。

 二人の事情も着拒なことも、これからゆっくり聞かせてもらうことにしよう。夜はまだ長いのだ。まずはそのお供がないと。




最初のとか懐かしすぎて直視できません。銀万銀をとても楽しく書いたことを今でもよく覚えています。

09/01/31