阿伏兎×神威です。吉原炎上篇前です。 血の描写があるのでご注意くださいませ。 ↓↓↓ 妥協と暇潰し 仕事が済んで帰ってきてみれば部屋は薄闇と静寂と赤い臭いに包まれていて、きちんと閉まっていないドアからざあざあという水音と人口の光が漏れている。 テーブルの上には食べ散らかしたゴミの山。床には真っ二つに割れた流行りの携帯ゲーム機。ベッドの上には大きな肉。もとい、見知らぬ女の死体。 留守番にも飽きたからたまにはついて行くというので連れてきてみたものの、ここまでの道程は散々だった。ちょっと目を離した隙に気に入った玩具を見つけて見境なく大暴れしたり、五日ほど迷子になって放浪した挙句やっと発見したときには大きな町一つ壊滅させていたり、ズルズルだかヌルヌルだかの怪しいボールを拾ってきて、龍を呼び出して手合わせして最終的には丸焼きにして食べたいなどと意味不明なことを言い出したり。 とにかく行く先々でトラブルばかり引き起こして仕事をさせてくれないので、仕方がないのでホテルに閉じ込めてみた。この星での用事はほんの三時間ほどあれば済むから頼むからいい子にしていてくれ何かほしいものがあるならなんでも手配させる、終わったら観光でも食い倒れでも怪しげな球探しでも法に触れすぎない範囲でよければ好きなだけ暇潰しに付き合うから。だからお願いします団長様。そう説得すること15分、何事にも飽きやすい我らが未来の海賊王様は説得されることに飽きて、あっさり了承したのだった。 しかし、それからきっかり3時間して戻ってみればこの有様だ。目付け役につけた部下は生きてはいたが暇潰しに付き合わされたらしく、現在手当てを受けている。全く可哀相な話だ。そしてこれからこの後始末につき合わされる俺も大概可哀相だ。暗く凄惨な光景を眺めて思う。 「阿伏兎、帰ってきたの? じゃあ部屋片付けといてよ」 きちんとドアの閉まっていないユニットバスの中をひょいと覗き込んでみるとカーテンから白い手だけが生えだしてひらひら踊った。しかしカーテンが使用されたのは手遅れになった後らしく、トイレの方までびしょ濡れだ。 「というか、ベッドの上のありゃなんだ?」 「ちょっとは暇潰しになるかなと思って。でも全然駄目だったよ。あ、電話使ったから俺は部屋から出てないからね。約束は破ってないよ?」 改めてベッドの上に目をやると、確かに暇潰しの玩具としては全然駄目だったらしかった。首がおかしな方向に曲がってさえいなければ、ちょっと寝乱れているようにしか見えないのだが。それにしても駄目だったと言うのはなんとなくわかるが、何をしようとしていたのかはとても理解に苦しむ光景だ。 「鳳仙の旦那はすごいね。地球人の女を生きたまま抱いてるんだろ?」 「…………」 返答に悩んだのでとりあえず無言で通した。別に夜兎は性交の際に誤って相手を殺してしまうからとかで絶滅の危機にあるのではないのだと、教えたほうがいいのだろうか。いやいやこれは知っているだろう流石に。神威ももういい加減いい大人なのだから。少なくとも、年齢だけは。 「……抱いてみたいのか、女」 「んー、好奇心かなどっちかというと。でも性欲処理は、したいな、うん」 「ほおー」 これはちょっと意外だった。ただの戦闘馬鹿だとばかり思っていたが、一丁前に性欲なんてものもちゃんとあったらしい。そういえばこの年齢で女を抱いたことがないということは、やはり自分で触ったりしているのだろうか。夜兎の中でも飛び抜けた力を誇る、見た目だけ繊細な指が己の性器をあやしている様を想像してみたらなんともいえない気分になった。そんな俗っぽい可愛げがうちの団長にも存在していたことに、非常に感動する。 「阿伏兎?」 沈黙を不審に思ったのか声がかかる。まさか団長が自慰行為に耽る様を想像していましたなんて本当のことは言えないので適当に誤魔化した。こんな下らない会話で死ぬのは流石にごめん被りたい。 「あーあ、もうちょっとガンジョーな女いないかなあ。そうしたらイロイロ試せるのに」 「なんだよイロイロって」 「さっきホテルのテレビでいろいろ勉強した」 「……そういや前の星で茶吉尼見たよな」 「へー。阿伏兎って茶吉尼で勃つんだ、すごいや。あとでみんなにも教えてあげなくちゃ」 「冗談です。すいませんでした」 「あはは」 ケラケラと無邪気な笑い声を上げる。阿伏兎はもう諦めて戻ろうとしたのだが、不意に笑い声は止んで浴槽を遮っていたカーテンが勢いよく開け放たれた。 シャワーの水が容赦なくあたりに撒き散らされる。そんなことにはお構いなしの神威はお気に入りの玩具を見つけた子供のようにきらきらと目を輝かせていた 「そうだ、阿伏兎が相手してくれればいいんだよ!」 それは何のお話ですか? わかった気もしたけれどわかりたくなかったのでわからない気になろうとした。しかし好奇心と退屈に捕らわれた大きな子供はそんな空気なんざ読んじゃくれない。本当に同じ言語で会話しているのかどうか、時々本気で心配になる。もしかしたら我々は悪意じみた奇跡のような偶然により会話が成立しているのだと勘違いしているだけで、本当は何一つ意思疎通などはかれていないのではなかろうか。真剣に、その可能性について思考する。 「約束したよね阿伏兎。いい子にお留守番してたらなんでも言うこと聞いてくれるって」 確かに言った。申し上げました。されど、こんな恐ろしい展開になるとは誰が予想できただろうか。誰か今すぐタイムマシンを用意してくれ。三時間前からもう一度やり直すから。 「言ったよね?」 にっこり笑って念を押す。もしここで否とでも言おうものなら、この星の歴史に魔王降臨の日が刻まれることは間違いなかった。神威の目は、本気だ。 「……言いました。全力でお相手させていただきます」 本当に、人生っていうやつは重要な選択肢の連続だ。この人の下についてから数え切れないくらい実感してきたことを、改めて思い知る。一体どこで間違ってこんなルートに入り込んでしまったのだろう。 しかしここで機嫌を損ねて大暴れされた上にその後始末までさせられるくらいなら、脅迫に屈してしまうほうが遥かに平和的なのも確かなのだった。 「あ、ねえ阿伏兎。俺、服着てた方がいい? 脱がせたい?」 「……団長の好きなほうでいいから、とりあえず髪はちゃんと乾かせ」 こっちの気も知らずに神威はやたらと上機嫌で、男とするセックスの何がそんなにおもしろいのかさっぱりわからない。ただその笑顔を見ていたら途方もない脱力感に襲われて、もうどうにでもなれと内側で呟いた。 この上司を相手に勃つのだろうかと若干の不安を抱きつつ。 一応はじめてらしいのでそれなりの準備が必要かと思いつつ一足先にベッドルームへと戻ると、当然ではあるのだが大きなベッドの中心にはまだ女の死体があった。どうしようこれ。そもそも誰なんだこの人。 「つうか、ここでやるんだよな……?」 たぶんゴミを処分する時間はもらえないのだろう。そうなるとやはりこの知らない女の死体は少なくともことが終わるまではこの部屋にいることになる。はじめての場に死体同席でもいいのだろうかと考えて、たぶん存在に抵抗どころか一片の疑問すら抱かないのだろうと思った。我らが団長様にとっては、枕元にぬいぐるみを置くのとおそらく大差ない。 でもやっぱり邪魔なので、せめてベッドの上から下ろしておくことにする。踏むと汚れるので隅のほうによけておこう。ひょいと持ち上げると首がだらんとおかしな方向に垂れ下がる。死んでしまえばどんな美女だって皆醜悪だ。 それにしても女を抱こうとした割にはほとんど何もしないままうっかり力加減を間違えたらしかった。着衣には少しもそれらしい乱れはない。 「……っておい」 死体にではなく、自分自身に待ったをかける。いくら夜兎でも流石に首の骨は危なくないだろうか。というかどれだけバイオレンスなプレイなんだ。首の骨が折れるって明らかにおかしすぎるだろう。抱きしめて全身の骨が砕けたとかの方がまだ理解できる。 犯るか殺られるか。そんな奇妙な単語が頭の中で激しいワルツを踊りはじめる。 確かに神威になら殺されてもいいくらいのことは思っているが、腹上死はさすがにちょっと、まだ、心の準備が。 いやいや待て、つまりは大人しくさせればいいんだ。そうだ、たとえば。 「縛るとか!」 「……阿伏兎。いくら俺でも最初くらいは普通のプレイがいいな」 気がつけば、いつの間にやらすぐそこにバスローブ姿の神威が立っていた。その表情は形だけは笑顔だが、眼が若干引いている。 「違う! 誤解だ!」 「大丈夫、別に俺は阿伏兎がどんな趣味していようと軽蔑したりしないよ。それに阿伏兎がそういうのがいいっていうなら俺も努力を惜しまない」 「誤解だから!」 しかし必死に否定すればするほど何故だか墓穴を掘る一方で一向に溝は埋まらない。それどころか言い合いに飽きられて「もういいよわかったから」と全然わかっていないのに一方的に会話を打ち切られてしまった。改めてタイムマシンを探す旅に出る願望にとりつかれる。 「で、俺は何をすればいいの?」 阿伏兎の隣に腰を沈め、上目遣いで問う。ほぼ間違いなく誤解は解けていないはずだが、それでもそう尋ねてくるということはマニアックなプレイでも構わないということなのだろうか。それはそれで期待に沿える自信はないので非常に困るのだが、そこまで強く求められていることにちょっとした感動じみた驚きを覚えなくもない。しかし同時に違うだろ落ち着け俺と諌めるもう一人の自分がいて、まだそのへんに転がしたままの死体を思い出し我に返った。そうだここでしっかりしないと最悪の場合は腹上死だ。 「いいか団長。団長のするべきことはたった一つだ。何もするな。さながら茶碗の中の米粒のように大人しくしていてくれ」 「え、俺も協力するよ? やっぱりせっかくなら阿伏兎にも楽しんでほしいし」 「もしも米の一粒分でも俺に好意があるのなら、是非何もしないでくれ。それが俺の幸せなんだ」 「……? ええと、つまり阿伏兎はそういうのがしたいの?」 「もうそういうことでいいから」 「??」 阿伏兎があまりにも熱心に説くので何もわかっていない神威はとても不思議そうだった。しかし物事を深く考えることを面倒くさがるきらいがあるため最後にはよくわからないまま「わかった」と頷き、言われるままにごろんとベッドに横たわる。無造作に投げ出された湿った髪が無駄に艶っぽい。団長のくせに、とは口にしたら命の保証はなさそうなので思うだけに止めておいた。 なにはともあれ、こうして阿伏兎は年下の上司を抱く羽目になってしまったのである。しかし実際思ったほどの覚悟は必要なくて、当たり前のように勃って、むしろその事実を認めて受け入れることの方に膨大な覚悟を必要としたのだった。 人生って何がどう転ぶかわからないものだなあと、それから以後、神威を抱く度に阿伏兎は考えるのであった。 はじめて書いたあぶかむ。茶吉尼がPCで変換できなくて漢字を確認するため単行本を読み返したのが一番の思い出です。 10/01/21 |