ハロウィンの変人と怪人

前編.ハロウィンの変人

今日の万事屋は仕事もなく貧乏で平和だった。

「新八ぃ、うちの酢昆布娘どこ行ったんだ?」
「神楽ちゃんならハロウィンって何って聞くから教えてあげたら外に飛び出していきましたよ」
「ふーん。ハロウィンねぇ」

テレビのチャンネルを適当にガチャガチャ回しながら、銀時は忌々しそうにぼやいた。

「お菓子をもらえるのは子供だけで大人になったら逆に恐喝されにゃいけねぇんだからろくな行事じゃねぇよ。神楽のやつ天人かぶれしやがって、ヅラが見たら泣くぞ」

「いや神楽ちゃんもとから地球人じゃないし。それと桂さんならさっき買い物のときエリザベスのコスプレして仲良く歩いているの見ましたよ」

「あー、じゃああれだ。高杉が暴れるぞ。あいついつも酒の席で俺と坂本に無理やり看護婦さんのコスプレとかさせられてたから」

「それハロウィン関係ないでしょ」

「いやいやそれがさぁ、あいつってば俺と坂本だと全力で抵抗するくせにヅラが頼むと素直なんだよな。ま、それが腹たってなおさら過激なコスプレさせてた俺も俺だったわけだけど」

「なんか今あんたたちの人物相関図が垣間見えた気がします」

銀時が思い出して舌打ちしながらチャンネルを回していると、突然画面に見慣れた顔が飛び込んできた。しかも大暴れ。

『テレビの前の皆さん、見えているでしょうか。これが今歌舞伎町で暴れている怪人ハロウィンガール(仮名)です! ただいま止めに入った真選組の平隊士の方たちが泣かされて帰って行きます!』

いつの間にか取り落としていたリモコンを拾い上げ、銀時はすぐにチャンネルを変えた。

「……情けねぇなぁ真選組。こんな小さい子供に泣かされちゃってるよ。さて、たまには野球でも」
「ってどうするんだよあれェェェェ!」
「は? 何言ってんだ新八。俺は今何も見てねぇぞ。それはきっとあれだよ白昼夢ってやつ」
「あんた保護者だろ、おいィィィィ!」

それから数分もしないうちに銀時の中ではつっこみを入れる新八の存在すら夢の中のものとなってしまった。



後編.ハロウィンの怪人

土方曰く、ハロウィンの日はお菓子をもらったら絶対に悪戯をしてはいけないらしい。
つまり朝一番でお菓子を押し付けられた沖田は今日一日大人しくしていなければならなかった。

今更言うまでもないが、小さい頃から今までずっと沖田は土方に騙されている。

今年も土方の計算どおりなら「ハロウィンにかこつけて総悟を大人しくさせよう作戦」はうまくいくはずだった。
沖田と一緒に見廻り中の土方の携帯が鳴りさえしなければ。

『副長、大変です。ハロウィンにかこつけて万事屋のところのチャイナさんが町で大暴れしてるって通報が!』
「ほぅ、そいつァ大変でィ」

電話の相手は山崎だった。がんばって背伸びして土方の携帯の音を拾った沖田は言葉と裏腹にきらきらと目を輝かせていた。

「土方さん、あいつを止められるのは俺しかいねェ。ちょっと行ってきやす」
「いや待て総悟。真選組は有能だからお前が行かなくたってたぶんもう今頃片付いて」
『さっき取り押さえに行った隊士たちが泣かされて帰ってきました』

空気の読めないバカ山崎の報告が大音量で電話から漏れる。あとでボコり決定。
都合悪くすぐそこの通りで悲鳴と轟音がとどろいた。残念ながら現場も確定。

「ほらやっぱり俺が行かねェと」
「い、行くな総悟。あー、そう、そうだ。お前が怪我すると近藤さんが悲しむぞ!」
「そんなへましないんで心配無用でさァ」

言いながら沖田は既に走り出していた。土方は何とか思いとどまらせようとその後も言葉を並べたて必死に説得を試みたが、やはりうまくいかなかった。

そしてやって来た現場。今日は保護者はいないのか、誰に止められることもなく神楽は見知らぬ男の胸倉を掴み上げていた。事の大きさにテレビカメラまでやってきている。

「トリック、オア、トリィトォォォ!!」
「何してるんでィ。何語だそりゃ」

腰の刀を抜くでもなく怪訝に眉をひそめ、沖田は尋ねた。

「何ってお菓子ねだってるに決まってるヨ。ハロウィンはお菓子を寄越さない大人はみんなひどい目に合わされる宿命ネ」

悪びれもせず、平然と神楽は答えた。沖田はからっぽの頭でしばし考え、やがて右拳で左手のひらをぽんと打つ。

「あ、なるほど」

言って沖田は見知らぬ大人Bの胸倉を掴み上げた。
そして二人の最強の子供の声がハモる。

「トリック、オア、トリィトォォォ!」

「あー、もしもし山崎? ちょっと酢昆布1ダースとと来週の女子プロのS席チケット持って至急現場来いや。これ俺じゃあ荷が重すぎる。あ? 決まってんだろ自費だよお前の財布から出せ」

途中から止めることを放棄して野次馬に成り下がっていた土方は、来年から年に一度の「総悟君良い子デー(土方命名)」はなくなって「総悟君恐喝デー(土方命名)」が毎年開催されるであろうことを思い、憂鬱な気持ちになった。
とりあえず女子プロで懐柔してから今度こそ正しいハロウィンを教えてやろうと思う。




ハロウィンに乗じたハロウィンらしくないハロウィンネタ。
前編はただのコスプレ話になっています。

05/10/30-31