学園天国 4.テスト返却 「えー、今回のテストで自分の名前が書けない人がいました。入試でこれやると速攻不合格なので先生は心を鬼にしてその人のテストは0点にしちゃったので反省するようにー。採点ミスがあったら持ってきてね。ついでにシュークリームでもつけてくれたら5点プラスするぞー」 「せんせぇ、多串君あげるんで俺のテストは100点ってことにしてくだせェ」 「いいよー。じゃあ総悟君は+93点ね」 「ちょい待てやお前らァァァ!」 「あ、じゃあ酢昆布あげるからわたしのテストも100点にするアル!」 「いや甘いもの限定だから」 「俺だって甘くねぇぞこら! てめっ、総悟縛ってんじゃねぇ!」 こうして今日も採点ミスで銀八の教卓前には長蛇の列ができた。テストが入っていただけのやけに大きな紙袋は土方や酢昆布でどんどん膨れていく。 その列を掻き分けるようにして、桂は銀八の前に立った。 「先生、俺のテストは答えがすべてあっているのに0点なのですがどういうことでしょう!」 「だってお前、名前間違ったじゃん」 平然と答える銀八。桂は肩を震わせて、銀八にテストを突きつけた。テストの名前記入欄には丁寧な字で「桂小太郎」と書かれている。 「これのどこが間違ってるんですか先生!」 「全部。だってお前はヅラだろ」 当然のごとく銀八は言った。身も蓋もない、突き放すような言い草。 それにもめげずに桂は教卓をバンと両手で叩いて声を荒らげた。 「俺の名前はヅラじゃなくて桂です先生!」 「お前がそういう名前に憧れるのは勝手だがな、世の中には変えられない事実ってあるんだよ」 「いい加減にしないと校長に直訴しますよ!」 「いやだからお前の名前はヅラだって。どう足掻こうとお前はヅラだよ」 「くそ、こんな学校辞めてグレてやる! 俺がこの世界を変えるんだァァァ!」 少しも怯むことなく淡々と受け答えする銀八に、とうとう桂は泣きながら教室を出て行ってしまった。しかしもちろん誰も追いかけはしない。 馬鹿ばかしさと少々の同情に溜息を漏らしながら新八が窓の外を見下ろすと、まだ何か叫びながら桂が2年のエリザベスと一緒に走っていくのが見えた。 「……転校したいなぁ」 5.ボイコット 姿が見えないと思えば案の定、高杉は屋上で煙草を咥えてフェンスに身を乗り出して、ぼんやりと眼下に広がる景色を眺めていた。 「お前、何してんの」 「別に」 銀八がきても煙草を隠すどころかさらにもう一本取り出して、火を寄越せと態度で示す。ほとほと呆れ果てながらもどうせよくあることなので銀八はライターを取り出して火をつけてやった。 それからぼんやりと屋上から世界を見下ろして、煙草を咥えたまま一言。 「お前教師だろ。電柱って世界に何本あるか知ってるか?」 「それ知ってたら教師じゃなくて電柱職人だよ。つーか唐突に何」 おもむろに尋ねられ、銀八は眉をひそめる。しかしそれには構わず高杉は続けた。 「もしすっげぇ目のいい奴が宇宙から地球を見たら、地球は電線でがんじがらめに縛られてるように見えんのかな」 「それ見えるやつってもう神クラスだろ。あと最近は地下にやったり普及してなかったりするところもあるから先生は見えないと思うぞ」 「あー、じゃあ日本だけってことにしとけ」 「つーかだから唐突になんだよ」 「特に深い意味はねぇよ。ただなんかそう見えんのかどうか気になっただけで」 「ああ、かわいそうだと思ったんだ?」 にやっと笑って高杉のほうを見ると、その顔がさっと赤くなって咥えていた煙草を落とした。 「ばっ! 思ってねぇよんなことっ」 「照れんなって」 真っ赤になって訂正する高杉に銀八が笑うと高杉は更に顔を赤らめた。普段は不良ぶっているくせにこれで結構素直な生徒なのだ。 「で、それはまあ置いとくとして授業に戻ってこいや」 「嫌だ」 今度はぶすっとむくれて言う。表情がころころ変わる。 「背が低いことからかわれたくらいで授業ボイコットはやめようって。先生が偉い人に怒られちゃうんだよ」 「あいつらが頭下げるまで俺は絶対戻んねぇ」 「でもあいつらもうそのこと忘れて七並べしてたよ。実は俺負けたバツゲームでジュース買ってこなきゃいけないんだけど金貸してくんない? あ、ちょっと高杉どこ行くんだよ。ボイコットの次は早退かよおい、え、ちょっと待ってってば」 しかし高杉は何も答えず早足で屋上を後にし、しかも唯一の出入り口たるドアに鍵までかけて行ってしまった。 「あー、これはあれか? 先生いじめか? 開けてよ高杉、先生が何をしたってんだよ。言えばちゃんと直すから。ねえ、もういないの? え、嘘。これマジ? 本当に行っちゃった?」 この後ジュースの買出しを頼んだ七並べ組にも忘れられ、銀八はここで夜を明かす羽目になった。 6.生物係 「桂、大変でィ! チャッピーが危篤でさァ!」 「なんだと、チャッピーが?」 血相を変えてやってきた沖田に桂は席を立ち上がった。その手にはミドリガメのチャッピーが抱かれているが、ぐったりとしていて様子がおかしい。 「一体何があったんだ」 「特に何もしてませんぜ。ただ水じゃ寒かろうと思ってお湯を注いでやっただけでさァ」 「ふむ。お湯か。ちょっと見せてくれ」 桂は沖田と一緒に教室の後ろに置かれた小さな水槽を見に行く。水槽は湯気を立ち上らせてぐつぐつと煮え立っている。桂はそこに定規をひたし、水をぺろりと舐めてみた。 「こ、これは……! 沖田、チャッピーの様子がおかしい原因がわかったぞ」 「そりゃすげぇや。どうすればいいんですかィ!」 顔を輝かせる沖田に、桂はごほんと咳払いをして言った。 「この水槽に満たされているのは水だ。つまり、塩分濃度が低すぎるのがまずいのだ!」 「つまり塩があればいいってことかィ。塩はねぇんで土方さんの弁当のマヨネーズでも入れておけばいいですかね」 「うむ。甘くなければおそらく問題ないだろう」 頷いて、二人はそれぞれマヨネーズを水槽にたくさん搾り出した。あっという間に水槽が気味の悪いことになる。 「あとちょっとかな」 「いやまだまだだろう」 「わかりやした」 「ってアホかお前らァァァァァ!」 クソ真面目に水槽にマヨネーズを投下し続ける二人を、後ろから高杉が学級日誌でスパーンと叩いた。本当は蹴り飛ばしたかったのだが沖田の手の中にいるチャッピーを危険に晒すわけにはいかなかったのでこれで我慢する。 「ミドリガメは淡水でいいんだ淡水で! そして寒くてもあり得ねぇほど水温上げてんじゃねぇ!」 「失礼な。俺はちょっとずつじわじわ注ぎましたぜ」 「俺はお湯を入れるなっつってんだよこのアホ星王子!」 心外だといった様子でまだお湯の余ったやかんを見せてくるので、高杉は再度日誌で沖田を殴った。 「お前らには任せておけねぇ。チャッピーをこっちに渡してもらおうか」 「断る。いくらお前がアニマルセラピーを必要とする人間であっても独占する権利はないはずだ」 「誰がアニマルセラピーを必要とする人間だこらァァ!」 断固として拒絶する一見正論のようで根本的なところが全て間違っている桂に高杉は言い返す。 二人を見ていて悟った。この二人に生物係をやらせてはこの教室に存在する全ての生態系が完膚なきまでに無邪気に破壊される。 「お前ら頼むから亀のスープが飲みたけりゃ専門店か不思議の国に行ってくれ」 「どうやらわかりあえないようだな。それではこちらもそれなりの覚悟はあるぞ」 「勝負なら俺も参加するぜ。チャッピーは俺が名付けたんだから俺と共に一生を歩むのが幸せなんでィ」 三人は睨みあい、火花を散らす。しかしそこで沖田は、ふと気づいて眉をひそめた。 「ってあれ? チャッピーなんか動かねんだけど」 「あぁっ! チャッピィィィィィ!」 「勝負は後だ医者行くぞ医者ぁっ!」 結局チャッピーは高杉の機転のおかげで一命を取り留めた。これ以来生物係の面子が変わったのは言うまでもない。 3zは銀八以外はみんな年齢無視で生徒だったらいいと思います。でも攘夷だけ教師とかでもいいとか思ったり。 05/12/03-11 |