携帯電話の使い方

1.土方と沖田の場合(土→沖)

「へ?」

柄にもなく、頓狂な声を上げてしまった。その言葉が信じられず、もう一度聞き返す。沖田はその理由がわからず小さく首を傾げてみせた。

「だから、近藤さんと相互指定したって言ってんです」

言いながら買ってばかりの携帯画面を開いて証拠をつきつけた。
しかしそれでもまだ土方は信じられない。

考えてもみてほしい。携帯をプレゼントされて、しかもそれが10月末で、その相手と並々ならぬ仲(※ あくまで土方の主観)であったのなら、11月から始まるたった一人の人しか選べない某定額制を一緒に申し込もうという意図があってのことだとわかるものではなかろうか。それをプレゼントした翌日にはもう仕事場の上司と契約されていたなんてことがあってたまるか。

「どうしたんですかィ土方さん」

これ本当は夢なんじゃなかろうか。そんなささやかな期待に応えてくれる神はたとえこの国に八百の神がいようともいるはずがなく、醒めない現実が目の前に突きつけられている。

「……あのさぁ、ひょっとして俺が同じことしたがってたの知っててやってるか?」
「初耳ですが」

土方の落胆ぶりに沖田は少し驚いた顔をした。確信犯でないところがそれはそれで傷つく。

「つーか土方さん指定したらもったいねーじゃん。金の無駄でィ」
「なんでだよ俺はいらねぇってのか」
「いやそうじゃなくて」

沖田はますますふてくされる土方が理解できないという風に不思議そうに言った。

「いつも一緒にいるんだからいらねーでしょう?」

ハッとして、うつむいていた顔を沖田に戻す。
言われてみればその通りかもしれない。離れることがないのだからこんなものを使う必要などないのだ。

「……まぁ、そうだけど」
「そうそう。だからキモいんで拗ねんのやめてくだせェ。あ、山崎からメールだ」
「って俺お前のメアド知らないんだけどいつ作ったんだよ」
「もらってすぐ。土方さんは知る必要ねーだろィ。と、今度は近藤さんから電話だ。もしもーし、総悟でっす。え、お昼奢ってくれる? すぐ行くんでちょっと待っててくだせェ。それじゃあ土方さん俺行って来るんでいい子に留守番頼みまさァ」
「え、あ、おい!」

土方の言葉も待たず、一目散に沖田は駆け出していく。
前言撤回。土方は沖田に携帯を持たせたことを心の底から後悔した。



2.銀時と神楽の場合(銀+神+新)

「もしもーし。銀ちゃん、聞こえるアルかー」
「あー、うん。聞こえてる」

同じ部屋で、すぐ隣で、神楽は楽しそうにもらってばかりのそれで遊んでいた。銀時も新聞を読みながら片手にそれをもって適当に受け答えしている。
神楽が本当に楽しそうで、新八はそのことが逆にかわいそうになった。

「銀さん、いくら本物買ってあげる余裕がなくても騙すのはやめてあげましょうよ。彼女信じまくってますよ」

神楽に聞こえないよう新八は銀時の耳にそっと囁いたが、銀時は少しも取り合うつもりはないらしい。

「何言ってんだ俺は子供に夢をあげてんだよ」
「夢、ねぇ」

改めて二人の手元を見る。細い糸で繋がれた二つの紙コップ。しかも糸はたるんでいるし片方が紙コップを持っているだけで耳に当ててすらいないので何一つ機能を果たせていない。

「……神楽ちゃん絶対騙されてること知ったら大暴れしますよ」

新聞をめくりかけた手が止まる。初めてその可能性に思い至ったらしい。
数秒の間を置いて、一層声をひそめて言う。

「……新八、俺はどうしたらいいだろう」
「知りませんよ自分で撒いた種でしょう。外に遊びに行ったら一発でばれますよ」

言った矢先にそれは現実となった。

「銀ちゃん、わたしこれもって遊びに言ってくるヨ! 貧乏人に見せびらかしてくるネ」
「ちょ、ちょっとまて神楽、俺が遊んでやるから今日は家にいろよ。あ、ほら新八も何か言え!」
「神楽ちゃん僕は無関係だからね」
「てめっ、この裏切り者ォォォォ!」

 銀時が新八を締め上げているうちに神楽は外に出てしまい、半刻もしないうちに騙された事実を悟って帰ってきたそうなのだが新八は巻き添えを食わないよう早々に帰宅したので詳しいことはよく知らない。ただ翌日に銀時の顔が変形していたことが全ての事実を物語っている気がした。



3.沖田と近藤の場合(土+沖+近)

せっかく近藤に食事に連れて行ってもらったというのに沖田はさっきからずっと熱心に携帯を弄っていて、まるで会話に参加しようとしない。
近藤のほうもそれが気になるのかあまり口数は多くなく、無理やりついてきた土方は居心地の悪さを感じていた。
数分おきに沖田の携帯のバイブが鳴り、楽しそうに顔をにやけさせながら返信する。食事はとうに片付いているとはいえ、あまりにも行儀が悪い。

「おい、総悟。近藤さんに失礼だろが」
「ん? 別に俺は気にしてないぞ」

人のいい近藤の言葉に甘えきった沖田も「そうそう」と相槌を打った。その仕草が腹立たしくて、ついに土方は携帯を沖田の手から取り上げる。

「てめ、いい加減にしろや」
「あ、返せ土方この野郎っ」

手を伸ばす沖田の頭を片手で押さえ、リーチの差で届かず鼻先で暴れる両手を無視して、こんなに熱心に一体誰とメールしているのかと興味を引かれ携帯画面を見た。
メールはちょうど今送信されるところだったらしく、その宛先には「近藤さん」と表示されている。

「……っておい」

手をばたつかせる沖田の頭を抑えたまま、胡乱な眼差しを近藤に注ぐ。近藤はふいと目を逸らして後ろ頭をかいた。

「いやー、総悟がムキになって送ってくるもんでつい」
「俺も近藤さんが律儀に返信くれるんでつい」

土方の手の下で沖田も同じようなことを言った。
つまりさっきから居心地の悪さを感じていたのは自分ひとりだけで、二人はずっと携帯を使ってやり取りをしていたということか。

「お前ら俺が邪魔なら邪魔って言えよ言ってくれよ。なんか俺すげー寂しいんですけど」

「別に邪魔だなんて思ってませんぜ。俺は土方さんにばれないよう近藤さんとこっそり会話することにスリルを見出してただけでさァ」
「すまん、トシ。別にお前が邪魔ってわけじゃないんだが」

「いいよもう俺なんか……」

土方は机に背を向け椅子の背もたれを抱きかかえ、携帯の代わりに煙草を一本取り出した。こうなったらこっちは煙草と二人の世界を作ってやるとか我ながら意味不明なことを思いながら。



4.沖田と神楽の場合(沖+神)

「わたしのために銀ちゃんが携帯作ってくれたヨ」

世間話の折に神楽がそんなことを口にした。

「携帯ってあれか? 最近話題の持ち歩ける小さい電話」
「そうアル」
「そりゃすげーや。万事屋の旦那にそんな特技があったなんて知らなかったぜ」

かくいう沖田も構造が知りたくて一度分解したことがあるのだが(なので現在持っているのは二機目だ)、外観と違ってずいぶん精巧な作りをしていた。下手な武器より複雑な文明の利器を一から一人で作りあげるとは見かけによらず実は頭が良かったのかと感心する。

「お前アドレス教えろよ。暇なときに呪いのメールでも送ってやるぜ」
「そんなもの持ってないからヨ」
「は? なんで持ってねーの」
「ないものはないからアル」

沖田はわけがわからず首を傾げる。作りはしたけれど契約する金がないということだろうか。しかしメールが使えないということはすなわち通話もできないのではないか。

「お前の携帯は何の機能があるんでィ」
「銀ちゃんとお話できるヨ」
「電話は使えんの?」
「でもさっきから何度やっても銀ちゃん答えてくれないネ」

そう言いながら少し困った顔で、神楽はポケットから折り畳まれた携帯を取り出した。

「……携帯?」

折り畳まれたというかむりやりポケットに入れようとして潰れたような、外側の底に途中で切れたタコ糸の垂れ下がった紙コップ。

「ひょっとしたら銀ちゃんに何かあったのかもしれないヨ」

本気で心配そうな顔をする神楽に、沖田はどう言葉をかけていいものかわからなかった。
でもとりあえずどうしても言いたいことだけは言っておこうと思う。

「ごめん俺誤解してた。お前見た目もバカっぽいけど見た目以上にバカだった。お前はキングオブバカだった」

世界は広い。下には下がいるものだと沖田は学んだ。



5.桂とエリザベスの場合(桂+銀+エリ)

「最近は物騒だからな。エリザベスにも携帯電話を持たせたんだ」
「え、喋るの? あれ喋るの? あの日のことはお前の脳内でデリートされたんじゃなかったの?」

エリザベスと定春のペット対決の時のことを思い出し、銀時は嫌なことを思い出してしまったと後悔した。あれはかなりのトラウマだ。誰でもいいから責任とってほしい。

「何を言う。エリザベスはシャイだから話さないのはお前も知っているだろう」
「いやシャイの定義間違ってると思うぞ俺は。全国のシャイな人たちに謝れ」

 少なくともあの着ぐるみを着て生活している時点で間違いなくシャイではない。どちらかといえば間違いなく対極に位置している。

「まあそれは置いといて、喋らないなら携帯電話に何の意味があるんだよ」
「エリザベスが迷子になった時などに周囲の音から場所を推理して迎えに行くためだ。む、エリザベスから電話が」

 桂は懐から携帯電話を取り出し、目を閉じて耳に意識を集中させた。銀時はばかばかしいものでも見るような目で(実際ばかばかしいと思っているのだが)その様子を見ていた。

「豆腐屋のラッパの音がするな。この時間だとあちらの方か。すまない銀時、エリザベスが呼んでいるので行かねばならない」
「できれば当分来ないでください」

 出て行こうとする桂の背中に、銀時は心の底からの思いを投げかけた。
 それにしてもあの手でどうやってボタンを押すのか。そして普段はどこに携帯電話をしまっているのか。あまり知りたいという気は起こらない。




 某恥ずかしい名前の定額制がうれしくて始めたプチショート。本当は高杉とか山崎とかいろんなキャラでやろうと思っていましたが時期を外したので控えめになりました。

05/12/18-28