年始セール 1.年賀状 一月一日。所謂元旦というやつである。 沖田は隊士全員分の年賀状を遅い時間にやって来た郵便配達院からまとめて受け取った山崎の手から奪い取り、空き部屋でうきうきしながら仕分け作業を行っていた。新年早々デスクワークなんて真っ平だ。そんなものよりかは隊士に来た年賀状の絵柄でも眺めているほうがずっといい。 「近藤さんに幕府の偉い人から。山崎に……誰だこれ、身内? 俺、つーかチャイナかよ。また近藤さん。漢字読めねぇや。ん? マヨラ13様……?」 変な宛名の葉書を見つけて眉をひそめる。差出人を見てみれば松平のところの娘だった。 「あー、あの遊園地のホルスタインの」 しかしなぜ土方にこの女から年賀状が届くのか。薄々予想はついたものの、念のため葉書を裏返してみる。するとそこにはやっぱり土方への熱い恋慕の情が丁寧な筆致で綴られていた。 「……これはこっち」 少し考えてから適当なところによけて、葉書の仕分けを再開する。 結局土方宛の知らない女からの年賀状は届いた分の一割を占めていた。 「やーまざきぃ。仕分け終わったぜィ」 分類してそれぞれ輪ゴムでまとめて、本来の雑用係である山崎にそれを返した。 「あ、どうもお疲れ様です。じゃあこれ配ってきますね。ってあれ、なんかちょっと減ってません?」 「気のせいだろィ。それよりこれ、書き損じなんだけど処分しといてくれや」 「書き損じって墨塗れじゃないですか。表も裏も真っ黒で、どうし損じればこうなるんですか」 「墨ぶちまけたんだって」 そちらはスーパーのビニール袋に墨と一緒にまとめてあり、さながら黒い海に溺れているようだった。 「まったくもう、こんなに葉書無駄にして」 「無駄な葉書だからいいんだよ。いいから黙って処分しとけ」 今年一番のいたずらは誰にも言わず、誰にも気づかれることもなく、ただ沖田本人だけが満足そうにほくそえんでいた。 2.お年玉 エリザベスと一緒に万事屋へ新年の挨拶に伺った。 「明けましておめでとう」 「おめでとー。よく来たなヅラ」 「エリザベス共々今年もよろしく頼む。ヅラじゃない桂だ」 新年の挨拶とお決まりの文句をかわし、ついでに土産に買ってきた甘酒もくれてやった。 大喜びで銀時に迎え入れられ上がりこむ。エリザベスがその後に続き、玄関を閉めた。 「オトシダマ寄越すアル」 桂の姿を認めるとすかさず神楽がやってきて、手のひらを上に片手を突き出した。 なるほど正月にはこういうイベントもあったか。思い出し、桂は懐の財布を取り出す。 「それではわずかだが」 あげたことがないので基準がわからないので金額は適当に、目に付いた札を引っ張り出した。 しかし神楽は貰った札を見て困ったように顔をしかめる。 「お前何考えてるカ。こんなのオトシダマじゃないヨ」 「む、足りないか?」 「そうじゃなくて根本的に違ってるネ」 言われて桂は首を傾げる。何がどう間違っているというのか。 そこに杯を片手に銀時がやってきて、不機嫌顔の神楽の頭をぽんぽんと叩いた。 「まあまあ神楽。そう落ち込みなさんな。お年玉ならその金であとで俺が買ってやるよ」 言いながら自分の財布を取り出して、神楽から奪った桂のお札を自分の財布に収めてしまう。 そこにお椀を持った割烹着姿の新八がやってきて、あっと大きな声を上げた。 「駄目じゃないですか銀さん。神楽ちゃん騙しちゃ。この子本気でお年玉はスーパーボールだと信じちゃってますよ」 「新八、子供は夢を持って大きくなるもんだ」 「あんたの嘘は夢どころが現実の汚さに溢れてるぞ。あ、桂さんどうも寄付ありがとうございます」 銀時に文句を言う割には返そうという意思はないらしい。別に大した額でもないので構わないが、なんだかいまいち釈然としない。 「肯定したいのか否定したいのかどっちなんだ」 「理想と現実の狭間に悩んでいます。まあせっかく来たんだしお汁粉くらい飲んで行ってくださいよ。お金ないんで餅なし餡子汁ですが」 「お前ら今年もろくな年になりそうにないな」 新年早々金策に励む友人の姿を目に、桂は怒りよりむしろ哀れみが込み上げてきた。 3.続・年賀状 正月だというのに屯所は静かだ。酒を呑んで羽目を外したのは大晦日までで、元旦からはカリカリと机に向かって書き物をする音ばかりがどの部屋からも聞こえてくる。真面目な勤務態度に感心する前に、どうした何があったんだと不安になるような。 その疑問が解けたのは正月も三日目となる頃だった。 「副長どうしよう俺受け取り拒否されちゃいました!」 わけのわからない泣き言を言って副長室へやってくるのは山崎だ。 「何の話かわかるように言えや」 煙草の煙を吐き出して、書類と睨めっこしながら切り返す。山崎はいつもの癖で吸殻のたまった灰皿を片付けようと持ち上げて、ついでに5枚の年賀状を見せてきた。 「もうみんな回っちまったらしくて誰も貰ってくれないんですよ。副長がこれ貰ってくれませんか。副長なら位が上だから出さなくてもどうにかなるでしょう?」 「いやだから何の話を」 してるんだ、という言葉は飲み込む。目に入ってきた年賀状の文面にはとんでもないことが書かれていた。年賀状にはありがちなことだが5枚が5枚全て同じ内容である。 『この年が状をうけとったやつはその日のうちに同じ文めんの年が状を5人のやつに出さないとクビです。たいちょーけんげんでクビ切るからそのつもりでよろしく。 しんせん組たいちょー仲田より』 「誰だ仲田っておらァァァ!」 「ああっ!」 山崎の年賀状を立ち上る衝動に任せて残らず破り捨て、ここにはいない人物へ無意味なツッコミを捧げる。あの年で自分の名前はおろか『年賀状』や『文面』すらまともに書けないのかと思うと怒りを通り越して哀れに、ならない断じて少しも全くならないなるものか。 「……隊士どもが馬鹿騒ぎもせずにカリカリやってたのはこういうわけか」 「そういうわけです。因みに俺は現在14通も貰っちまいましたどうしましょう」 「あいつ今どこよ。新年早々チェーンレターやりやがって」 破り捨てた年賀状の切れ端を山崎の手にある灰皿の上にばらばら捨てて、ついでに今咥えている吸殻も天辺に突き刺す。 ちょうどそこに近藤もやってきて、頭の悪そうな文面の文字だけがやけに整った年賀状を書類の上のどっさりと積み上げた。後に数人の隊士が続き、第ニ第三どころか第十くらいの山崎が副長室に集まった。 「トシぃぃぃ! 俺の年賀状貰ってくれよ俺このままじゃクビになっちまう!」 「副長、俺たちのもお願いします!」 「こんなにクビ切られたら真選組が機能しなくなりますよどうするんですか副長!」 「つーかクビになるかァァァァァァ! おら山崎あの馬鹿ちょっと連れて来い5秒以内!」 「えぇ!?」 こうして今年の正月は、年賀葉書の無駄使いから始まった。 4.賽銭箱(土→初期沖田→銀時) 暇だから初詣にいくと言い出して、土方の財布を奪ってふらりと出かけたかと思えば思ったよりずっと早く帰ってきた。 「早いな。どうしたんだ?」 「外寒かったから近場で済ませてきたの」 「近場?」 この近くに神社なんてあったかと首を捻る。毎日のように見回りをしているせいでこのあたりの地理は完璧に頭に入っているのだが、いまいち心当たりがない。 「あとこれね、賽銭投げたらくれたよ。絵馬だって」 そういって嬉しそうに取り出したのはどこからどう見てもかまぼこ板。 そろそろ裏が読めてきた。 なんだかすごく嫌な予感がした。 「……なぁ、それ誰がくれたんだ?」 「万事屋さん」 予感的中。残念ながら。 こんなことなら仕事なんてほっぽりだして自分もついて行けばよかったと後悔する。 しかしもちろん沖田が土方の胸の内に気づくことなどなく、嬉しそうにいつものように土産話を聞かせてくれるのだった。 「あのねー、重々ご縁がありますようにって二十五万円投げるのがいいんだって。土方さんのお財布に五万円しかなかったから、明日残りの二十万持ってかないと駄目なの。じゃないと土方さんがマグロ漁船乗っちゃうの」 「ってそれどこの悪徳業者だよおいィィィ! しかもお前じゃなくて俺かよ乗るの!」 「だって土方さんのお金だし。ね、二十万円お年玉ってことでちょーだい?」 上目遣いで無邪気に金をせびるこの娘は、もちろん金の価値なんてわかっちゃいない。自分の預金通帳を燃えるゴミに出した女だ(山崎が回収して現在は土方が預かっている)。金に関して全く頓着も関心も知識もない。 万事屋の奴にそこをつけ込まれたような気がひしひしとする。しかも絶対100%土方に対する嫌がらせだ。いつだったかケンカ売ったのを余程根に持っていると見える。 「やれるかそんな大金! お前の通帳からももちろん出さねぇぞ」 「二十万円くれたら万事屋さんがいいこと教えてくれるんだって。だからちょーだい。あたしの通帳どっか消えたし」 「いいことってなんだ畜生あの白髪頭ァァァァ! お前騙されてるよ! 滅茶苦茶悪い男に引っかかっちゃってるよ!」 「違うよあれは銀髪だって言ってたよ」 「そうかわかった今すぐ俺があいつ斬ってくるから目ぇ覚ませ。よーしちょっと待ってろよ」 それから腰に沖田を引っ提げて本気で万事屋まで出向いたのだが残念ながらもちろん勝てるはずもなく、ローンで買い直してばかりの剣は再び折られるわ沖田がその剣裁きに惚れ直すわで、新年早々ろくな年になりそうもなかった。帰りに引いたおみくじも大凶だった。 5.初詣(沖神) 花より団子。参拝より参拝客目当ての屋台。沖田はどちらかといえばそんな感じで、一人で行くのもつまらないので食い意地の張ったチャイナ娘も特別に誘ってやった。 どうせあそこは大した収入がないから御節も食べられないのだろうと思い、ついでに御節の残りも持参してやった。偏食の沖田に性悪上司が課したノルマを処分してやろうという魂胆だったのだが予想通り大歓迎を受けた。一石二鳥とはこのことである。 「あらあらちょっと待っててね」 新年の挨拶に来ていたらしい近藤の婚約者(近藤談)になぜか待たされて、沖田同様早く出かけたそうにしていた神楽は一度奥へ引っ込んでしまった。 わけもわからず待たされて、餅なし汁粉を啜ること30分。やっと準備ができたかと思えばなぜか着物を着ていた。 「よ、待たせたナ」 本人は少し気恥ずかしいらしく、目線を少し逸らせて言った。それから一度躓いた。情けない。 「まあ、あれでィ。馬子にも衣装っていう」 「お前に言われなくてもそんなことわかってるヨ」 送り出され、二人になってから沖田は感想を告げた。神楽は着慣れないせいか動きがぎこちなく、言いながらもずっと足元ばかり見ていた。 「で、そこの馬。お前この階段登れんのかィ」 鳥居をくぐれば神社の境内まで長い階段が続いている。頂上で土方を蹴り落としたらさぞかし楽しい結果になりそうな予感がする。今度是非連れてこよう。 二人して階段の下で遥か先の頂上を見上げ、考える。 こんなときの定春だろうに寒いのでコタツから出てこなかったのだそうだ。 「わたしやるときはやる女ヨ。登ってみせるネ」 「大丈夫かィ。足踏み外して落ちたりしたら合格祈願にやってきた受験生とその関係者が青褪めちまうぜ」 「天辺まで登って吠え面かかせてやるヨ」 言うなり裾を少し持ち上げて、神楽は勢いよく階段を登りだした。思っていたよりテンポよく登っており、そのやや斜め後ろを沖田が着いていく。 「よっ、とっ、ほっ、だりゃっ」 「色気ねぇから黙って登ったほうがいいぜ」 「うるさいっ、お前は大人しくついてくればいいア……あっ」 十七段目を踏みかけたところでかかとがずるりと音を立てて滑った。普段ならそれでも余裕で持ち直すだろうに余程着物は動き辛いと見え、頭が大きく後ろに逸れて体もそれに引っ張られてしまう。 やれやれと内心で溜息をつき、手を伸ばす。いつ落ちてきてもいいように後ろを歩いていてよかった。 「そうそう。そういう声出してりゃ少しは可愛げもあるってもんでィ」 「……うるさいヨ」 ニヤニヤ笑う沖田に顔を真っ赤にして、神楽はそっぽを向いてしまった。せっかく抱きとめてやったってのに礼の一つもなしと来た。 「ったく、やっぱお前はチャイナ服が一番ってことだな」 あんまり怒らせて暴れられては面倒なので二人揃って落ちる前に降ろしてやる。しかしその手は握ったままで、神楽はしかめ面を作った。 「何アルかこれ」 「命綱。俺と一緒に出かけて落ちられでもしたら目覚め悪ぃし」 「離せヨ恥ずかしい」 「んじゃあ罰ゲームってことで。お前落ちたからお前の負けでィ」 「本当は手ぇ繋ぎたいだけのくせに」 「ばーか。そういうのジカジョーってんだよ」 ケンカしながらも結局振りほどくことはなく、今度は落ちずにどうにか無事に二人揃って天辺まで辿り着けた。 話がリンクしているようで実はあまりしていなかったり。たぶんほとんどの話で「正月早々」という単語を使ったんじゃないかという気がします。 06/01/01-07 |