拍手小ネタ1〜5

1.マーキング(土沖)

見廻りの最中公園を通って、騒いでいたら沖田が噴水に落ちた。

「……土方さんサイテーでさァ。なにもわざわざ水の中に落とさずとも」
「いや俺は悪くねぇよ。お前がよそ見して落ちたんだろが」
「いやいや土方さんが悪いでしょう。つーか俺が非を認めるの癪だからあんたが悪いに決まってる」
「なんだそれはおい」

噴水の縁に座った土方と水の中の沖田は二人で罪を擦り付け合う。もちろん今は隊服を着ているのでここの馬鹿二人は真選組の上層部に所属してますよと触れ回っているようなものだ。みっともないことこの上ない。真選組の名前に泥を塗りまくっている。

「なんか不毛になってきたし冷えるからとっとと帰るぞ。脱いでこれ羽織っとけ」

とりあえず沖田に風邪でも引かせたら周りがうるさそうなのでとっとと帰ろうと適当に会話を打ち切って、土方は自分の上着を脱いでよこした。しかし沖田はそんな土方をぼけっと見ているだけで、受け取るとか自分の服を脱ぐとかする素振りはない。ただ呆然と、信じられないといった顔で土方を見上げている。

「何してんだよ。風邪引くぞ」
「俺はこのまま帰るんで気にしないでくだせェ」
「は? だってそのままじゃ寒いだろが」
「寒い。すっげー寒い」

しかし頑として服を脱ぎたがらない沖田。沖田はもともと夏でもきっちり隊服を着込んでいるほうで、仕事態度の割に服装はきちんとしている。というかたぶん脱ぐと失くすからとかそう言う下らない理由なのだろうが。

「服持ってやるから脱げって」
「嫌でさァ。つーかあんた脱げ脱げって変態くさいですぜ」
「んだとてめぇ! いいから言うこと聞けってんだよお前に風邪引かすと面倒なんだよ俺が」

土方は上着を地面に放り捨て、自分も噴水に飛び込んだ。無理やり沖田の肩を掴んで実力行使に及ぶ。沖田が何とか阻止しようと暴れるのでバシャバシャと派手に水音がした。こうなると両者とも最早意地で、周囲の視線や濡れることなど完全にお構いないだ。

土方が小銃と短刀を取り上げた時点で勝負は決した。この体勢で刀は抜けないし純粋な力比べで沖田が土方に勝つことはまずありえない。
暴れる沖田を羽交い絞めにして上着を引っぺがし、スカーフを外して濡れたシャツも脱がし――そこで手が止まった。


首筋に、心当たりのある赤い花弁のような痕。それもいくつも。


土方の動きが止まったのをいいことに沖田は力任せに引っ張ってシャツの襟元を引き寄せ、水に半分沈んでずっしり重そうな上着にもう一度袖を通した。
そして少し怒ったような顔で一言。

「土方さん、あんた忘れてたでしょう」

忘れていた。完全に忘れていた。それは沖田が嫌がるわけだ。
全ての謎が解け、残ったのは気まずい沈黙と周囲の視線だけ。

「あー……その、すいません。せめて上着だけでも俺の着ませんか」
「その短刀返してくだせェ。今すぐ殺してあげるんで」

それから結局びしょ濡れのまま沖田は戻って、ものの見事に風邪を引いた。
寝込んでいる間も沖田の機嫌は少しも直らず、当分土方は山崎に追い返される日々を送ることになるのだった。



2.一方通行(沖+山+土 「リトルフラワー」その後)

困り顔の近藤と山崎を代表して、土方は山崎にしがみついてはまだ遊ぶと駄々をこねる沖田を無理やり引き剥がした。

「だーかーらー、こいつはこれから仕事なの。わかるか? お前と違って遊んでばっかじゃ給料もらえねんだよ!」
「そんなこといってどうせ俺への日頃の恨みを晴らそうって魂胆のくせに」
「違ぇよ馬鹿」
「じゃあやきもちだ。土方さんたら遊びてぇんならそういやいいのに言えないシャイな人だから」
「てめぇいい加減にしねぇとしまいにゃ斬るぞ」
「ほーう。やれるもんならやってみなせぇ」

近藤と山崎を置いてけぼりに、刀を抜きかけ険悪なムードを醸し出す沖田と土方。このままでは本気で血を見そうなので慌てて近藤が間に割って入った。新入りの山崎はといえば二人の会話についていけずにぽかんとして状況を見守っているだけで何もできない。

「ま、まあ二人ともその辺で落ち着け。総悟もほら、飴やるから。山崎も午後には研修終わるから。な?」
「本当ですかィ?」

近藤に飴を貰って頭を撫でられてはさすがの沖田も引くしかなかろう。土方に向けられていた敵意のことなど一瞬で忘れたかのように、その顔にパッと笑顔が浮かんだ。

「山崎ぃ、午後は一緒に見廻り行こうや。この前いいゲーセン見っけたから教えてやるよ」
「それ見廻り違うだろが」

煙草に火をつけそっぽを向いた土方がぼそりと呟いたが、もちろん沖田は取り合わない。研修に行く二人に手を振って見送った。

二人が廊下の角を曲がって消え、土方と沖田の二人が残された。
沖田はうきうきとしながら鼻歌交じりに飴の包みを開き、空中に放り上げて口でうまくキャッチする。

「あいつが気に入ったのか?」
「ええ、まぁ。年も近いしキャラもおもしろいし」
「近いか?」
「俺とあんたの年の差知ってますかィおっさん」
「おっさん言うな」

しかしたしかに言われてみれば自分を含め沖田の周囲の他の人間と比べれば、そこそこ近いといえるかもしれない。今まで年上の連中に混じって剣術ばかりやっていて、ろくに同年代の相手と遊ぶ機会などなかったのだ。

「友達になれますかねぇ」

まだ名残惜しそうに廊下の角を見つめ、沖田はぼやいた。土方もちらりとそちらを見やる振りをして、その横顔を盗み見る。期待と少々の不安を綯い交ぜに、まるでクリスマスイブの子供のようである。

「さぁな。お前次第じゃねぇの」
「あ、じゃあ思い切ってアタックでもしてみますか」
「お前それ友達じゃねぇよ恋人だよ」
「どっちでもいいや」
「いいのかよ、おい」

口の中で飴玉を転がしながら、沖田は「早く午後にならねーかな」と笑って呟いた。



3.近藤さんの湯呑み (土+ちび沖)

近藤がいつも愛用していた湯呑みが真っ二つに割れてしまった。
棚の上のおやつを取ろうとしてつい足を滑らせて、その衝撃で落ちたのだ。

どうしよう。

足りない頭で考える。これは近藤が大切にしていた湯呑み。どうして大切にしているのかは知らないけれどとにかく気に入っていた湯呑み。でももう今は割れてしまって湯のみじゃなくなってしまった湯呑み。

「あーあ。それ近藤さんの愛用品じゃねぇか」

びくりとして後ろを振り向けば、意地の悪い笑みを浮かべて土方が立っていた。総悟の上から覗き込むようにして湯のみを観察している。さっき服の中に蛙を仕込んで逃げてきてばかりなので、五分ぶりの再会だ。

「近藤さんそれ気に入ってたのになぁ。きっとガッカリするぞ。うん、そうに違いない」

近藤さんがガッカリする。その言葉は総悟の心に重くのしかかり、じわりと目に涙が浮かんだ。
すると今度は土方がぎょっとして、少し慌てて意地の悪い笑みをすっかり引っ込めてしまった。

「すまん今のは俺が悪かった。わかった泣くなってお前泣かすと俺が近藤さんにどやされんだよ」

無言で泣く総悟の頭を撫で、土方はあやし始める。それでも総悟が泣き止まないので困った様子で打開策を打ち出した。

「とりあえず米粒でくっつけてみるか」

湯呑みの破片を拾い上げ、総悟のおやつと一緒に棚にしまってあった握り飯を一つ取り出す。米粒を少し摘んで、割れたところに詰め始めた。総悟も手伝おうとして危ないからと却下される。仕方がないので土方の仕事を大人しく見守っていた。

「まあそれで駄目だったら、つーかたぶん駄目だけど、俺も一緒に謝ってやるよ。そんな顔すんなってあの人がこれくらいで怒るわけねぇから。俺がこの前酒の勢いで近藤さん肥溜めに突き落とした時もあの人笑ってただろ」

その話は覚えている。酔っ払って性格の豹変してしまった土方を臭い匂いを振りまきながら近藤が担いで帰ってきたのだ。あの時は土方も近藤もげらげら笑っていて、総悟もその姿を見てずいぶん笑った。

「ただいまー。総悟、今日のお土産はすごいぞ来てみろ!」

思い出して二人でニヤニヤしていたところにちょうど近藤が帰ってきた。



4.コンビニにて(土+銀+沖 3z)

レジに置かれたのはエロ本1冊と冬季限定のチョコレート菓子5種類。
向かい合っているのは店員と客であり、また生徒と担任でもあった。

「ちょっと多串君バイトなんかしていいと思ってんの。うちの高校の校則知ってる?」
「教師が堂々とエロ本なんて買っていいと思ってるんですか。なんで俺と桂の名前だけいつまで経っても覚えないのか教えてください」
「うるせぇな。教師だって人間なんだよ。こういうものだって生きてくには必要なんだ」
「それを言うなら俺だってバイトしないとまともな人間として生きていけねぇんだよ」
「おいおい店員が客にそんな口聞いていいのかよ。接客態度がなってないんじゃないの」
「あんたの授業はそれ以上に駄目だろ」

睨み合う二人。土方のほうは既に敬語が抜けてしまっている。
雰囲気はみるみるうちに険悪になり、このままではレジを投げ合っての喧嘩でも始めてしまいそうな感じだった。

「大体さぁ、生活のためとか言っておいてどうせバイト代全部好きな子に貢いじゃったりしてんじゃないの多串君のことだから」
「してねぇよするわけねぇだろ」
「本当かねぇ?」

嘘だ。本当のところバイト代の半分以上は沖田の食費に消えている。ろくに自宅に帰りもせずに土方の部屋にすっかり居ついてしまい、なぜだか土方が養う羽目になっている。なんなんだあいつは。パラサイトか。もっとも交換条件として家事諸々は沖田がやっているのだが。

会計を済ませたそうな客が何人か遠巻きに二人を見ていた。もちろん二人はそんなことに気づいておらず、醸し出すオーラは彼らを寄せ付けようとしない。近づけば斬るとでも言わんばかりだ。
しかしそれらをものともせず、品物を持ったままうろうろしている客の隙間から一人の少年がやってきた。

「せんせー、まだ終わらねんですかィ。ってあれ、土方さん?」

その声に引き付けられて周りを見て、初めて土方は自分が今バイト中であることを思い出した。しかしそれよりも驚くべきは今沖田がここにいるということ。銀八と一緒に。

「総悟、なにしてんだお前」
「何ってせんせーがチョコ買ってくれるっていうからついてきただけですぜ。あ、帰りに夕飯の買い物したいんで財布貸してくだせェ」

客のくせして店員の財布を要求する同級生。教え子を連れてエロ本とお菓子を買う教師。校則を破ってバイトする自分。どれも常識から考えると決して正しいものではないが、この中で一番まともなのはといえばまず間違いなく自分ではなかろうか。表面上は沖田が一番まともそうに見えなくもないが、土方的にはそれを認めたくはない。

「ふーん。総悟君が多串君の夕飯作ってるんだー?」
「そーです。その代わり全部土方さんの奢り」
「そっかー多串君のバイト代は総悟君のお腹に入っちゃうんだねぇ」
「って銀八てめぇなんで俺のほう見て言うんだよ。つーか生徒連れてエロ本買っていいと思ってんのかこの野郎」
「じゃあ一緒に使うってことで」
「尚更悪いわァァァァ!」

再び自分が店員であることも忘れ、土方は銀八を渾身の力を込めてエロ本で殴り飛ばした。それからレジも投げつけた。



5.だってブームなんだもん(土+沖 3z)

最近の沖田は毎日のように土方の部屋に夕飯を作りに来る。
沖田お手製のグリーンカレーをつつきながら、土方は向かいに座る沖田の顔を窺い見た。

「なあ、総悟……俺なんか最近悪いことしたか?」
「へ? いや特に記憶は。なんですかィ突然」

カップ麺をずるずるとすすりながら、沖田は土方のほうを見た。人には手作りグリーンカレーを食べさせておいて自分は偏食なので作るだけ作って食べないのだ。

「じゃあなんだ最近の俺への嫌がらせは」
「ちょいと待ってくだせェ。嫌がらせって何を指して言ってるんですかィ?」
「何ってこれだよ、これ」

土方は行儀悪くカンカンとスプーンで皿を打ち鳴らした。そこにあるのは一見すればごく普通のグリーンカレーで(といってもグリーンカレーなんて初めて見たのだが)、食べてもやっぱり変な薬が入っている様子はないごく普通のグリーンカレーだ。

「ただのカレーじゃないですか」
「ああそうだよただのカレーだよ。お前ちょっと今日から一週間くらいまでの夕飯のメニュー遡ってよぉく考えてみ?」
「はぁ」

沖田は一度箸を置いて、言われた通りにここ一週間の夕飯のメニューを指を折り曲げて数えだした。

「昨日はポークカレーで、一昨日はドライカレー、更にその前ははナンカレー、ビーフカレー、野菜カレー、シーフードカレー、カツカレー、エビカレー……その前はなんでしたっけ?」
「その前はあれだ。喧嘩してレトルトカレーだった」
「ああそういえば。で、いったい何がご不満なんで?」
「いやだからな? なんでこうずっとカレーばっかりなんですかって言いたいんだよ俺は。お前はいつからカレー星からやってきたカレー王子になったんだ」

しかもカレーは一人分なんて作れないのだ。もちろん夜食はカレーだし、朝食もカレーだ。昼は給食がある日は別だが休日はやっぱりカレーだ。ここ一週間ほどカレー以外のものは給食以外何も食していない。なんていうか今までよく文句も言わず耐えてきたものだと我ながら思う。

「言われてみれば最近カレーが多いですね」
「多いっつーか100%カレーじゃねぇか!」
「いやちょっとマイブームで」
「作るのがか? 食わせるのがか?」

自分はビーフとポークとカツ以外食べていないので少なくとも食べるのがブームではない。それにしても偏食なのに料理好きって結構複雑な愛憎模様がないか。

「まずいですかね」
「うまいよメチャクチャうまいよ専門店開業できるよ。でも頼むからそろそろ他のもの食べさせてくれませんかね!」
「いいですよ文句あるなら食わねぇで。下の階に住んでるせんせーはなんでも喜んで食べてくれっから」
「あ、そういう手に出るかお前! いいよもうおかわり持って来いよいくらでも食ってやるよチクショォォォ!」

しかしさすがに沖田もこの一件で同じメニューの派生が続くのは嫌がられるということを学習したらしく(本人はカップ麺ばかりでよく飽きないものだ)、次の日は久しぶりに蕎麦が出た。その日から麺の料理しか作ってもらえなくなった。同じジャンルのメニューを続けるのもやめてほしいのだが言ったら今度こそ作ってもらえなくなりそうなので、とりあえず半月くらい我慢して様子を見ようと思っている。




甘いのばっかです。小ネタはギャグと甘いのが多いです。

06/03/11