恋愛模様 1.勝てない理由(土+沖→神) 神楽と遊びに行った沖田は、時々擦り傷を作って帰ってくる。会うたびにケンカして一体何が楽しいのかと尋ねれば、ケンカするのが楽しいのだと笑って答えた。 「そりゃたしかにお前と対等に渡り合えるガキなんてそういねぇからな」 そういう意味では手加減する必要もなくて楽なのだろう。 自分では面倒くさがって消毒すらしようとしない沖田を無理やり座らせて手当てしてやりながら、土方はそう考えた。 「で、本気でやったらどっちが強い?」 「俺」 少しも考える素振りを見せず即答で返す。 「十回やって十回勝てる自信はありまさァ」 「その割にはよく怪我して帰ってくるじゃねぇか。チャイナ娘が怪我してるのは見たことねぇぞ」 ちょっとした意地悪心で言ってやれば、案の定沖田はぐっと言葉を詰まらせた。調子に乗ってニヤニヤと笑いながら土方は沖田の顔を覗き込む。 「顔が赤いぜ。見かけによらずフェミニストの総悟君?」 その顔がさっと朱に染まる。消毒液の入ったビンを振りかざそうとするが、物騒なので実行する前に手で押さえつけた。 「照れ隠しに暴力は相変わらずだな」 「知っててやるあんたも相変わらずですね」 上目遣いに睨みつけてくるその仕草が幼い頃から少しも変わっていなくて少し微笑ましかった。 その頬に絆創膏を張ってやると、くすぐったそうな顔をして身をよじった。そのせいで張る位置が少しずれたが気にしないことにする。 「消毒液も絆創膏もただじゃねぇんだ。もったいねぇからあんま怪我してくんじゃねぇよ」 沖田は小さく頷いて、土方に見えないようこっそりお茶に消毒液を混入した。匂いですぐにばれること請け合いのささやかな悪戯をするところまで昔から変わっていないとたぶん思われるだろうなと、心の内で小さな苦笑を一つ漏らして。 2.おまじない(山→沖←土) 「また派手にやられたなぁ山崎」 「俺が殴られてるの見捨てておいて何を言ってるんですか」 「何言ってんでィ。俺は囮になってやったんじゃねーか。俺が逃げたから土方さんもすぐにお前を解放してくれたんじゃん」 沖田と一緒にミントンしていて殴られて、自分で手当てをしていたところに土方を撒いた沖田が帰ってきた。山崎の予想通り無傷である。 「あ、これ結構痛いんじゃね?」 そう言いながら腫れた頬を人差し指でつつくのだからたまらない。痛いとわかっているのなら触らないでくれればいいのに。相変わらずこの人は何を考えているのかまったくわからない。 「痛いです。沖田隊長」 「おお、目尻に涙が」 「だからマジで痛いんですって」 ごしごしと滲んだ涙を手の甲で拭ったら皮膚が引きつれて余計痛みが増した。何がおもしろいのかそれを見て沖田はけらけら笑っている。 「ね、俺が絆創膏はっていい?」 まだ笑いながら、沖田は救急箱から絆創膏を取り出した。さっきから話しながらもちらちらとそちらを見ていたので、救急箱に興味を示していることには気づいていた。自分が滅多に怪我をしないせいで珍しいのかもしれない。 「いいですけど、ちゃんと怪我の上にはってくださいよ」 「わかってるって。任せとけや」 沖田なら目の上にはって睫毛を根こそぎ持っていくくらいやりかねないような気がしてかなりの不安を覚えたが、ここで断っても一度言い出したら力ずくでもやる人なので覚悟を決めることにした。絆創膏一つで覚悟を決めなくてはならない自分の境遇に少し疑問を覚える。 沖田はわくわくした様子で紙を剥がし、絆創膏を力いっぱい山崎の頬に押し付けた。情けないので声はさすがに上げなかったが顔をしかめてまた目尻に滲んだ涙の気配を感じながらこれは部下いじめの一環なのだろうかとつい考えてしまう。一緒にミントン→副長の部下虐待→隊長の嫌がらせ。なんだこれ最強コンボじゃん。 絆創膏をはり終わりこれで解放してもらえるかと思いきや。 「そーだ。この前テレビで見た早く治るおまじないやったげる」 言って沖田は何を思ったか絆創膏の上に唇を乗せた。絆創膏越しに、殴られて刺激に敏感になった肌がその感触を感じ取る。 「これ効くのかね。あ、なんかおもしろそうなもんあったらもらってっていい?」 沖田は無邪気に笑い、呆然としている山崎のことなどお構いなしに救急箱をひっくり返して土方暗殺に役立てられそうな物品をがさごそ漁って探しはじめた。 山崎は口をパクパク動かすばかりで、何も言うことができない。 山崎が背後の気配に気がつくのが5秒後。沖田が山崎と救急箱を見捨てて部屋を飛び出すのが3秒後。 本当に最強コンボだったのだと考えた頃には既に手遅れだった。 3.ヤキモチ(土→沖(初期)→近) 「おっ風呂お風呂ー♪」 廊下を歩いていたらご機嫌な沖田とすれ違った。愉快そうな鼻歌と持っている道具からして、これから風呂なのだろう。 なんとなく振り返ってその背中を見送る。挨拶くらいしろと呼び止めればきっと機嫌を損ねるだろうと考えて、どうしようか迷いながら。 「お風呂ー近藤さんとおっ風呂ー♪」 鼻歌の続きはとんでもなかった。 「ってちょっと待て」 数歩で間合いを詰めて襟首を掴む。不愉快な鼻歌がぴたりと止まり、想像通りのしかめ面が振り返った。 「何」 「そりゃこっちの台詞だよ。お前誰と風呂だって?」 「近藤さん」 「マジで?」 「マジもマジ。超マジ」 土方も顔をしかめて、しばし二人で睨み合い。流れからして土方が沖田の風呂行きを止めようとしていることがわかったらしい。土方は風呂場にまでわざわざ腰の刀を持っていく剣士の鏡の片手を視界の隅にとどめ置くことを忘れないよう努めた。ここで抜かれたらとんでもない。 「ヤキモチは見苦しいよ土方さん」 いつものように実力行使に試みるかと思いきや、予想外の反撃を食らった。 冷めた目で土方の図星をついてくる。 「はっ!? 誰がヤキモチだってんだよてめぇ!」 動揺を隠そうと声を無理に荒らげて土方は言った。 しかし沖田は涼しい顔で、 「土方さんも近藤さんと一緒にお風呂入りたいなら近藤さんに言えばいいじゃん。でも今日はあたしが近藤さんの背中流すって先に約束したから駄目だからね」 「…………はい?」 動揺も何もかも忘れて思わず聞き返す。しかしもう一度言われたのはやはり土方が耳にした通りの言葉で。 「違うの?」 言った後で沖田はちょこんと首を傾げ、それからハッと思い出して土方に背を向けた。 「あ、近藤さんに置いてかれちゃう。土方さん後で遊んだげるね」 こちらの返答も待たずパタパタと廊下を駆けていく。 あっけにとられて見送りそうになったところで我に返り、土方もそれを追いかけた。 「ちょ、待ておいコラ絶対行かせねぇぞ俺は!」 テーマは片思い。話数が少ないですがネタが尽きたのでここで終わってしまいました。銀→沖でも書けばよかったですか。 06/03/11 |