拍手小ネタ6〜10

6.ここにいるよ(沖+土+山 結核ネタ)

ここにいるよ ここにいるよ
どこにもいかず ずっとここに
寒い寒い冬の間 少しの間眠るだけ
ここにいるよ ここにいるよ
春になったら また遊ぼうね


きれいな歌声が風に乗って届く。
それはどこまでも澄んでいて、優しくて、それでいて儚げだった。

「悲しい歌ですね」

仕事の合間に二人で見舞いに来た、屯所の離れ。その建物の影で足を止めてしまった。
紅葉を迎える前の緑色の銀杏の木の下。あれほど大人しく寝ているように言っているのに相変わらず勝手に抜け出して、木に背を預けて歌っている。黒い隊服ではなく死に装束でも思わせるような真っ白い着物を身にまとって。

「悲しい歌じゃねぇよ。希望の歌だ。冬を越えて、春を待つ」
「知ってるんですか?」
「あいつがガキの時によく見てた子供向け番組。付き合わされて見てたから」

山崎の隣で土方は、気持ちよさそうに歌う沖田に視線を合わせたまま遠い目をした。昔のことを思い出しているのかもしれない。

「悲しく聞こえるとしたら、もうすぐ冬が来るからだろ」
「……そうですね」

もう二度と春の来ない、永遠の冬が。寒い寒い永久に凍りついた。
そのことを知っていて、当人はあれほど穏やかに歌うのだから信じられない。それでもあの人はそのことが尚更物悲しさを想起させていることに気づいていない。

「山崎、お前ここで帰れ」
「は? なんでですか」
「そんな顔であいつの前に出るんじゃねぇっつってんだよ」

そうして土方は返事も待たず、山崎を置いて行ってしまう。歌う沖田に声をかけ、前より少しだけ柔らかい口調で叱り飛ばす。それから沖田を軽々と抱き上げて、離れの中へ入って行った。
取り残された山崎は二人の姿が見えなくなっても一人で銀杏の木を見上げていた。

「副長だって俺と同じ顔してましたよ……」

きっと悲しまない人なんていない。これはそういうことなのだろう。
やがて来る冬。二度と来ない春。まだ銀杏の葉は若草色のまま。



7.善意の忠告(初期沖+土)

女は馬鹿だ。どいつもこいつも上辺だけしか見ちゃいない。
男も馬鹿だ。ちょっとちやほやされただけでデレデレする。
というか土方が馬鹿だ。そして土方なんかにときめいちゃってる女たちが馬鹿だ。哀れだ。

「土方はん最近顔出してくれなくて寂しいわぁ」
「今度はいつ来てくれはるの?」
「あー、じゃあ今夜。仕事のカタついたらな」

仕事ねぇ。左手を見て少し考える。
左手には手錠がついていた。さっきそこで現行犯逮捕した食い逃げ犯だ。最初は沖田を女と見て油断していたが、容赦なく殴り飛ばしたらあっさり観念して大人しく手錠につながれて沖田の後をついてきている。

「ねーあんた、食い逃げと婦女たぶらかし、どっちが罪深いと思う?」
「は、はい?」
「あたしさー、食い逃げは働いてお金返せばいいと思うのね。でも女たらしはさー、女の心に癒えない傷を残すと思うの」
「えっと、あの……?」

困惑する食い逃げ犯をよそに沖田はズボンのポケットをごそごそやって、よく失くすからと山崎に紐をつけて服に縫い付けられてしまった鍵を取り出した。紐の長さに限りがあるので手をそちらに持ってきて、手錠の鍵穴さしてガチャリとそれを回した。

「ほら、お逃げポチ」

手錠を外してやってお行きと手を軽く振る。
しかし食い逃げ犯はきょとんとして、自分の手と沖田の手を交互に見るばかりだ。

「え、どうして」
「捕まったら斬り殺されると思って死ぬ気で逃げなさいな」

軽い口調で、ただし右手は刀の柄に手をかけて。
食い逃げ犯はようやく沖田の気まぐれな親切心を理解したらしく、小さな悲鳴一つ残してあたふたと逃げていった。

「さて、と。とりゃっ」

その辺に転がっていた空き瓶を、土方の脳天に狙い定めて投げつけた。
もちろん土方はぎりぎりのところでかわして(いっそ当たればよかったのに)、その辺の建物にぶつかって派手な音を立てて割れた。破片が当たりに飛び散ったが幸いにも怪我人は一人もいない。
土方は目が合って犯人が沖田とわかると抜きかけた刀の柄から手を離して、それはもうものすごい剣幕で走ってきた。

「てめ、投げていいモンと悪いモンの区別つけろや!」
「いやちょっと緊急だったんで。今そこで食い逃げ犯逃がしちゃったから捕まえるの手伝って」
「お前の魔手から逃げ延びる食い逃げ犯ってどこのどいつだよフカしじゃねぇだろうな」
「まさか。もうなんていうか目の前で逃げてったから」
「マジでか。そんなにすごい奴なら攘夷の連中と関わりがあるかも知れねぇな。よし、他の奴らも呼んで江戸中を虱潰しに捜すぞ!」
「はーい」

もうすっかり今話していた女たちのことなんか忘れて血気盛んに走っていく土方。女と仕事を天秤にかけて仕事を取ってしまうようじゃこの人はやはりただの女たらしだ。誠意あるお付き合いなんて一度たりともしたことがないに違いない。
沖田はその後をのんびり追いかけようとして、やっぱりやめてくるりと女たちのほうを振り返った。

「あの人ろくな男じゃないから、騙されちゃだめだよ」

にっこり笑顔で、今しがた土方の魔手から救ってやった女たちに善意でもって忠告してやった。



8.充電式の愛(土沖 3z)

高校生のバイトなんて奴隷と一緒なのかもしれない。安い賃金で働かされ、おまけに上の命令には絶対に逆らえない。今日だって沖田と遊ぶ予定があったのに、飛び込みで急なバイトを入れられてしまった。

土方は溜息をつきつつ携帯でメールを送信し、急に行けなくなった旨を伝えた。今はもう放課後で、沖田は山崎のところにゲームを借りに行ってから行くとのことで今日は先に帰ってしまったのだ。

そんなわけで待ち合わせ場所ではなくバイト先のコンビニへ、だらだらと足を進める土方。大学生になったら絶対もっといいところにバイト先を変えよう。このままでは働けど働けど沖田の食料で全て燃焼されてしまう。

この前降ってばかりの雪が空気を余計に冷たくし、息の白さを実感しながら赤信号で立ち止まる。この辺りは建物が多いせいで日当たりが悪く、他の場所よりまだずいぶんと雪が残っていた。気をつけないと凍った雪に足を掬われ転倒してしまいそうだ。

そういえば行き交う車の向こう、そこが待ち合わせ場所のはずだった。ふと思い出して無意識に求めている姿を探し、視線を彷徨わせる。信号はまだ変わらない。

「あっ」

一瞬見覚えのある淡い茶色の髪の毛を見つけた気がした。しかしすぐにトラックで隠されてしまい、土方はトラックが通り過ぎるのももどかしく横に走って位置を変える。氷で滑りそうになるのをなんとか持ち直した。

やっぱりいた。待ち合わせ場所でしゃがみこんで、両手に息を吐きかけて暖を取る沖田の姿。

腕時計をちらりと見れば、もう既に約束の時間を30分は過ぎてしまっている。ひょっとしてその間ずっと待っていたのだろうか。

車のほうの信号が赤になり、車たちが動きを止める。歩行者用の信号が青になるまでの微妙なタイムラグを待つことができず、土方は交通ルールを無視して飛び出した。
横断歩道を走り抜け、雪で凍った道に再び足を掬われそうになりながら、やっとのことでその肩を掴む。

「総悟っ!」

声と手に気づいて沖田がこちらを向いた。寒さで顔を赤くして、吐く息で暖めていた両手も真っ赤で、足元にはおにぎりサイズの雪だるまがいくつも沖田を取り巻いていた。
その顔が一瞬ぱっと明るくなって、それからすぐ思い出したように口を尖らせた不機嫌顔に変わる。

「おっせーよ土方さん。何してたんでィ」
「お前、メールは!」
「メール?」

沖田は小さく首を傾げ、ああ、と思い出したように言いながら上着のポケットをごそごそやって傷だらけの携帯を取り出した。慣れた手つきで開いてボタンを押そうとした手が止まる。

「充電切れてら」
「……馬鹿かお前」

偶然にも待ち合わせ場所がバイト先への通り道でよかった。でなければ沖田をここでずっと待たせてしまうことになっただろう。そんなことをしたら間違いなく沖田は風邪を引き、ついでに自分が悪かろうがなんだろうが関係なく激しく機嫌を損ねる。

「ひょっとして急用入りました?」
「あー、ちょい待ってろ」

土方は自分もズボンの尻ポケットから沖田のよりずっと丁寧に扱われている携帯を取り出して、先ほどかかってきたばかりの番号をリダイヤルした。

「もしもし店長ですか。ちょっと俺すぐそこで事故に合っちゃいまして。いや大したことないんですが一応病院いっとかないとやばいんでやっぱ休ませてください。はい。どうもすいません。それじゃ」

ものすごく頭の悪い嘘だとは思ったが、妊婦を拾ってよりかはまだ使い古されていないだろう。土方はもう電話がかかってこないよう電源を切った上で、携帯をあった位置に戻した。

「そういうわけだから、バイト先の知り合いに見つかるとやばいからうちでいいか?」

まさかもう既に見つかってたりしないよなと念のため視線をめぐらせる土方を見上げ、沖田はからかうような笑みを浮かべた。

「病院行くんじゃなかったんですかィ」
「じゃあお前が患者で俺が医者。問題ねぇな」
「うっわこの人変態だよ」

土方の返しに沖田は笑い、行くぞと言って先に歩き出した土方の後ろを追いかけた。土方が今しがた無視して渡ってばかりの信号は再び赤になっていて、青になるまで凍った雪で遊んだりして、さっきまで鬱陶しいだけだった雪は最高の遊び道具に変わっていた。



9.後ろ暗い(土沖+近 65訓後)

遊園地で本当にもういろいろあった帰り道。松平とその娘とは別れ、三人は重い足を引きずって屯所へと歩いていた。否、正確には沖田は疲れて近藤の背で眠っているので実際に足を引きずっているのは二人だけだ。

「いやー、とっつぁんの親バカも大したもんだったな」
「そうだな」

たかが娘のデート妨害に真選組の幹部3人をかりだすのだから大した職権乱用振りだ。おまけに刃物振り回して脅迫するわ、ジェットコースターで人一人落ちかけるわ、仕舞いには遊園地に自家用ヘリ乗りつけてドンパチ始めようとしてたというのだからもう下げる頭もない。

しかしそこはそこ、臨機応変に動けるのが真選組の売りなわけで、こんなところで日頃の成果を発揮するのもそこはかとなく悲しいが、なんとか逃げ切ることができた。ホルスタインはあの後沖田が十分に脅しておいたので口を割ることはないだろう。娘のほうは、不承ながら土方が頼んでおいた。

「まあでもあれだ。それだけ娘が可愛いんだろうな」
「そうだな」

しかし、と近藤はちらりと背中で静かな寝息を立てる沖田のほうを見た。今日ははしゃぎすぎて疲れたのだろう、規則的な寝息をたててよく眠っている。

「やっぱ俺も総悟に恋人なんかできたら同じことするかもしれんなぁ。俺にとって総悟は弟であり息子でありみたいなものだからな」
「……そうだな」

つい、と目を逸らす。
まさか俺が恋人ですと言うわけにもいかず。

「しかももしその恋人が悪女とかだったら最悪だな。もうこうなったら成敗するしかないみたいな?」
「……悪女ってたとえばどんなだよ」
「そうだなぁ。たとえば、総悟というものがありながら平気で浮気したり嫌がる沖田を無理やりホテルに連れ込んだり」
「……いやあ、とりあえず後者はたぶんないんじゃないか。ほらこいつ男だし」

しばしば浮気もばれているし、ホテルどころか屯所の部屋とか風呂とかいろいろなところにしょっちゅう連れ込んでいますとは口が裂けたって言えない。

「案外もう悪ーいお人に引っかかっちゃってるかもしれませんぜ」

突然かかるはずのない声がかかった。てっきり寝ているものだと思ったのに、いつの間にか目を覚ましていたらしい。

「うっそ総悟お前まさか彼女いるのかお父さん知りませんよ!?」
「嫌だな冗談ですって近藤さん。いませんよ彼女なんて。ねぇ、土方さん?」

彼氏ならいますけどねェ。沖田の目はそう言っていた。しかも今日早速よその女に惚れられてきましたよ、とも言っているような気がする。

「本当だな。本っっ当にいないんだな! 俺はお前を信じるぞ総悟!」
「へい。じゃあもし俺が悪い人にひっかかったら近藤さん自ら成敗してくれますかィ」
「よーし任せとけ! とりあえず彼女ができたら俺とトシがお前にふさわしい人かみきわめてやるからな! そうだろ、トシ」
「……あ、ああ。そうだな」

もうどこを見ればいいのかわからず、逸らしに逸らした視線は空へと投げられた。
土方の後ろ暗さを現したかのように、空は夜色にとっぷり暮れて暗く彩られている。



10.譲ってあげたんだから(土沖←山)

仕事の休憩時間にたまにはいいかと思い、一人でぼんやり冬空など見上げながら外で煙草を吸っていた。

「やーまざきぃ。それちょーだい」
「だーめ。沖田隊長はもう少し待ちましょうね」

どこからともなく現れた沖田は少し機嫌が悪そうで、それでも煙草がほしいのかやたら猫撫で声で山崎の気を引こうとした。しかしもちろん害と依存性があるから絶対あげたりはしない。

「ちぇー」

どんなに言っても山崎がくれないので沖田は口を尖らせて、つまらなそうに足元の地面にぺたんと座った。なぜか体操座り。本人はこの座り方が好きらしい。

「どうして煙草吸ってんの? いつも吸ってないじゃん」
「この前なんとなく買ったやつが余ってて、そろそろ吸わないと駄目になりそうだったんで」
「ふーん」

張り込み捜査のときに、隠れているときはいいのだが通行人を装っているときなどは何もしないで立っていると逆に目立つのだ。だから買っただけで特別好きではないし、嫌いでもない。
沖田は煙草を吸う山崎を少し珍しそうにじっと見ていたが、徐に思い出したように顔を不機嫌にして口を開いた。

「お前さ、土方さんが煙草を吸う理由知ってる?」
「煙草でしか自分を癒せない人だからじゃないんですか」

さりげなくひどい発言をした気もするが今は殴りに来ることもないだろうから気にしない。大体沖田の機嫌の悪い原因なんてたかが知れていて、土方が何かしでかしたか天気が悪いかのどちらかと相場が決まっている。

「俺が思うにあれは絶対煙草で女の香り消そうとしてるんだぜ。でも全然それくらいじゃ消えないくらい甘い香りさせてて煙草と混ざり合って逆に臭いのなんのって」
「あー、それで逃げてきたんですか」
「ちっげぇよ見捨ててきたの見限ってきたの」
「はいはいわかりましたよ」

今日は天気がいいのでそんな気はしていたが土方のほうが原因らしい。沖田は抱えた膝に顎を乗せて、かわいい顔には似合わないしかめっ面をつくった。
山崎は二本の指で煙草を挟んでふうっと優しく息を吐いた。胸の中の汚いものを吐き出すみたいに灰色の煙が空気を汚す。この煙の名前は嫉妬かもしれない、なんて馬鹿げたことを考えながら。

「じゃあ俺に乗り換えませんか」
「はっ?」

声が二つ重なっていたような気がするが、少なくとも沖田は気づかなかったらしい。山崎の言葉にただでさえ大きな目を更に大きく見せるかのように丸くして、全身で驚きと動揺を表現している。かわいいなと素直に思った。

「俺なら絶対浮気しないし幸せにしますよ」
「へ、いや、ちょっと待って、なんで、え」

ちょっとした冗談のつもりだったのだが、沖田はかなり本気に取ったようで山崎の予想以上の反応を返してくれた。浮気した土方に少しくらいなら感謝してやってもいい。
しかしこれ以上からかうのも可哀想だしあまり怒らせると後が怖いので、これくらいにしておいてあげることにした。

「冗談ですよ。でも顔赤くしちゃってるあたり実は結構脈ありだと思っていいんですかねー」
「なっ、山崎てめっ」

更に顔を赤くして、沖田はこれが真選組随一の使い手であるとは誰も信じないだろう仕草でぼかぼかと山崎の足を殴った。もっと他にやり方があるだろうに、どうしてこういう子供っぽいやり方しかできないのか。それともこれこそが土方の教育の賜物だったりするのだろうか。だとしたら土方に対する見解を少し改めようと思う。鬼のニコチン中毒副長から一見鬼のようで実はただの変態のニコチン中毒副長に。

「そろそろ休み時間終わりですね。行ったほうがいいんじゃないですか」
「あ、ほんとだ近藤さん待ってるかも。お前帰ったら覚えてろよ」
「楽しみにしてますよ」

台詞の内容の割には沖田の顔は笑っていて、山崎もにこやかに手を振って送り出してやった。
もう大分短くなった煙草をくわえ、これがなくなったら自分も仕事に戻ろうと思った。

「あんまり泣かせてると俺本気で奪っちゃいますよ?」

戯れに、空へ向けて言ってみる。風もないのに後ろの茂みががさがさと揺れた。

「これは冗談じゃなくて本気ですからね」

だからせいぜいご機嫌取りに必死になればいい。
さっきから隠れているのに気づいてはいたけれど沖田の前では黙ってあげていたのだから、せめてそれくらいの誠意は見せてもらいたいものだ。
それに沖田を幸せにしてくれないのなら譲ってやった自分が馬鹿みたいじゃないか。




煙草を吸う山崎が無性に気に入っています。強気な山崎も萌えると思う。

06/05/14