球技大会準備編

1.総司令官(担当:銀八)

「いいかお前ら、よーく聞け。今年も我が校伝統の球技大会の季節がやってきた! 各クラス紅白2チームに分かれてのトーナメント戦だ。そしてこれに勝ったらなんと今年は豪華賞品がついてくる!」

豪華賞品の言葉で生徒の間に緊張が走った。銀八はわざと間を持たせてもったいぶってから、声高らかに宣言した。

「3年Z組のアイドル、多串君と高杉が一年分支給されます!!」

「って誰が支給されるかァァァァァ!」
「今すぐ病院送りにされてぇかこの白髪ァァァァァ!」

ガタガタと立ち上がる3年Z組のアイドル(銀八談)の土方、高杉。しかしその他の生徒の反応は違っていた。

「よーし、みんな気合入れていくぜー!」
「先生、僕はお妙さんがいいのでお妙さんも賞品にくわえベブシっ……」
「銀八先生このゴリラは賞品にするなんてまどろっこしいことしないで今すぐ葬ってきていいですか?」
「ふむ、やるからには最善を尽くそう」
「ワン」

それぞれにやる気を見せ、3年Z組の生徒たちは今ここに一致団結した。

「それでこそ俺の生徒だ! 今日から他のクラスはみんな敵だと思え! 先生がみんなのために役割分担票を作ってきたから活用するように!」

銀八は握り締めていたレート表(教師たちは球技大会でトトカルチョを行っている)を尻ポケットにしまいこみ、代わりに黒板に夜鍋して考えた役割分担表を張り出した。



2.馬鹿どもを教育し隊(担当:妙)

「はーい、いいですか二人とも。これからドッジボールのルールを説明します」

銀八から借りた教鞭を手に、妙は席についてこちらを見上げる沖田と神楽をにっこりと見下ろした。妙の背後では心配そうに通りすがりの新八がこちらを窺っている。

「ルールは簡単です。ボールをぶつけ合って最後まで立っていたほうの勝ちよ」
「って姉上全然ルール違うじゃんかァァァ!」
「あら新ちゃん。だって敵チームが戦闘不能になったらこっちが自動的に勝つじゃないの」
「そんな裏技みたいなルール教えなくていいよ! しかも3zの最凶コンビに」

当の最凶コンビはといえば、言われたことを熱心にノートに書き写している。と見せかけてパラパラ漫画を作っていた。やる気のないことこの上ない。

ドガシャァァァァッ!

「駄目よ二人とも。ちゃんと人の話は聞きましょうね?」

手刀一発で沖田の机をノート諸共一刀両断し、にこやかな笑顔で妙は言った。ノートと机の残骸を見下ろして、珍しく沖田の表情が引きつっている。

「……へい、すいやせんでした」
「わたし心を入れ替えた新生神楽になるヨ」
「そう。じゃあ続けましょうね。相手がボールを投げてきたらその隙にこっちは敵チームの外野を投げるのよ」
「ふむふむ、なるほど」

「……駄目だこりゃ。なんかいろんな意味で駄目だ」

新八は始まる前から球技大会に不安を覚えるのだった。



3.衣装を準備し隊(担当:桂、新八)

姉のほうの様子を見てかなりの不安を覚えながら、新八は自分の班に戻ってきた。

「どうだった様子は」
「駄目でした」
「そうか。しかしこちらだけでもがんばろうではないか」

二人は衣装班である。といっても体操服ならみんな持っているし、どうしてこの班が必要なのかはよくわからない。なぜか体育倉庫にいた銀八(何をしていたのかは怖くて聞けなかった)に尋ねたところ、「これ先生がんばって作っちゃったから」と衣装の型紙をもらってきてしまった。

「で、こんなのを作ってほしいそうです。細かい指示はそれぞれこっちのメモ3枚に」
「ふむ。なんだ3着だけでいいのか?」
「そうみたいです。まったく、誰に着せるんだか」

型紙をもらった瞬間疑問は解けた。衣装はチアリーダーの服だったのだ。つまりは球技大会にかこつけて気に入った生徒に可愛い格好をさせようという企みらしい。セクハラじゃないのかこれ。

「メモに書いてあるんじゃないか?」
「あ、そうですね。僕もまだよく目を通していな……」

言いながらメモに目を落として、動きが固まる。
ああそうだあの担任はセクハラより生徒への嫌がらせに情熱注ぐような人だったと変な納得感がこみ上げてきた。

「どうした?」

首を傾げる桂に無言で2枚のメモを渡す。メモにはそれぞれ「多串くん」、「高杉」と書かれていた。寸法もご丁寧に男用だ。というか3枚全て寸法が微妙に違うあたりやけに凝っている。変なところで凝り性だ。そしてどこでサイズの情報を入手したんだ。

「……作るんだよな、これ」
「作らないと僕らが報復にあいますね」
「土方と高杉の報復より先生の嫌がらせのほうが怖いな」
「そうですね」

3枚目のメモの「ヅラ」と書かれたやつをさてどうしたものかと、新八は考えた。



4.他のクラスを偵察し隊(担当:山崎)

3年生の優勝候補は今のところB組である。教師が非常に熱血で、生徒との絆も強くチームワークに優れている。放課後もこうしてB組だけグラウンドで練習しているのだからすごい。どうでもいいところにばかり手間を割いているZ組なんて足元にも及ばないだろう。

「よう山崎。ちゃんとやってるかィ」
「見てるだけですけどね」

講習が終わって暇になったらしい。ふらりとやって来た沖田は山崎の隣のベンチに座った。

「B組はよほど土方さんと高杉がほしいと見た」
「んなわけないでしょ。この大会の本当の賞品は教師陣の手作り賞状ですよ。先生がああ言ったのは教師たちが内々にやってる賭けで給料全部超大穴、つまりうちのクラスに賭けたからってだけです」
「マジでか。さすが偵察班だぜ」
「隊って一人なんですけど。ちょっと聞き込みしたらすぐに判明しましたよ」

はあ、と溜息をつきつつも律儀に指示されたとおりB組の戦法をノートに書き連ねていく。これを作戦班のところに持っていけば山崎の仕事は終了だ。

「お、山崎ちょっと見てみ。あのロングの子どう思うよ」
「あれですかぁ? 俺としてはもう少し足の細いほうが。左の外野のショートの子とかどうです?」
「駄目だってあいつ悪女だぜ。土方さんがこの前泣かされたから」
「え、あれってあっちのポニテの子じゃないんですか」
「何言ってんでィ。土方さんの好みはイキのいいショートだぜ」
「へぇ、そうなんですか。ところで右のセンターの子最近美人になりましたよね」
「そういえばそうだな。男でもできたんじゃね?」

いつの間にか話はB組女子で一番の美人は誰かになってしまい、気がつけばB組の練習は終わってしまった。仕方がないのでB組の女子の裏事情(情報提供は沖田)をレポートにまとめて提出したのだがなぜだかやたらとウケがよく、いい仕事をしたと褒められた。うれしくなかった。



5.小道具を作り隊(担当:神楽、近藤、長谷川、猿飛)

とにかく試合に役立ちそうなもんなんか作れ。それが銀八から下った指令だった。

「おいおいなんでこんな班に俺が配属なんだよ。おじさん困っちゃうって」
「わざとよくわからない班に配属して失敗させようって魂胆なのね先生ったら……」
「いやあのちょっと頬赤らめないでもらえますか」

指示内容もいい加減なら構成メンバーもいい加減だった。なんだか余った奴を適当に寄せ集めたような気がひしひしとする。

「こういう時こそ総悟の出番だろうに、総悟はどこの班なんだ? ねぇチャイナさん」
「捕獲班アル」

いたずらにかけては右に出るもののいない沖田だが、こっちはこっちで変な班に配属されているらしい。というかまともな班があるのかどうか甚だ疑問だ。

「とりあえず何か結果出さないと」
「堂々と失敗して怒られればいいのよ」

どうやら小道具内容の話し合い以前に仕事をするかしないかから話し合わなければならないようだ。
たぶんこの班は他のどの班よりチームワークがズタボロなんじゃないかと長谷川は思った。

「よぉ小道具班。なんか縛れるものちょうだいよ。ってなんだ、全然作ってないじゃん」
「あ、先生」

今までどこにいたのか知らないが、ひょっこり顔を出した銀八は何かとんでもないものを要求してきた。ここはそういうものを作るための班だったらしい。

「ったく、想像力のない奴らだな。いいかこういうのは発想が大事なんだ。どんな武器なら如何に反則を取られず敵を葬れるかっていうことをまず第一にだな」

「先生それは小道具って言わなくないですか」
「先生もっと叱ってください」
「先生僕の想像力はお妙さんで一杯です」
「先生腹減りました!」

長谷川以外誰もやる気がない。やる気があっても別方向に働いている奴もいる。

「おいおい、大丈夫かよこの班……。よしここはちょっと先生が手本を見せてやる。いいかまずは手錠と首輪から作るぞ」

そんなわけで銀八自らの指導で小道具班は拘束具から出発することになった。
3年Z組の明日はどっちだ。



6.景品たちを捕獲し隊(担当:沖田、定春)

どういう理由を提示して得たのかは知らないが、銀八は教員権限で体育用具室を貸しきっていた。
放っておくと球技大会をサボりそうなので高杉と土方は銀八と捕獲隊によりここで捕らわれの身となっている。しかし銀八はちょうど今は何か縛るものを探しに行くといって出たところで、いるのは捕獲班の沖田と定春だけだった。

「てっめぇ沖田出せコラ!」
「総悟こんなことして後でどうなるかわかってんだろうなぁ!」

現在沖田が何をしているかと言えば、跳び箱の上に座る定春の上に座っているだけだった。志村姉による単純明快な猿でもわかるドッジボールのルールを教わり山崎のところに寄り道して校庭横切って体育用具室にやって来て、定春と一緒に既に二人を跳び箱に押し込んでいるところだった銀八に留守番を任されて今に至る。

「あーあーうるせぇや。俺だってもう少し楽しい班がよかったぜ。小道具班とか作戦班とかさァ」

銀八にも同じことを言ったのだが、そうしたら沖田が楽しくなるように玩具を持って来てくれるといってどこかへ行ってしまった。そんなことより班編成を変えてほしい。犬では話し相手にならないし跳び箱の中の住人はやかましいだけで楽しい会話などできそうにない。

「今すぐそこどかねぇと犯すぞこのカマ野郎」
「はっ、何言ってやがるぶっ殺されてぇのか高杉!」

高杉の挑発に乗ったのはなぜか全く関係ないはずの土方で、定春の下の跳び箱がドスンバコンと動いて定春が少しよろめいたがそれだけだった。
沖田は定春の上に乗ったまま頭を下にして、跳び箱を隙間から覗き込む。中では二人が暴れているのがかろうじて見える。

「うるせーなァ」

沖田はポケットからカッターを取り出して、キチキチと刃を限界まで出した。

「静かにしてくだせェ」

ガッ

跳び箱の隙間に根元まで勢いよく差し込む。

「静かにしてくれないとカマ野郎ったら退屈だから一人で黒ひげゲーム始めちまいますぜ?」

沖田から暗い跳び箱の中はあまり見えないが、中にいる高杉と土方には明るい体育用具室で邪気に満ちた無邪気な笑みを浮かべるという矛盾をやってのけた沖田の顔が、嫌というほどよく見えただろう。
跳び箱はそれっきり中に人が入っているとは思わせないほど静かになった。



7.なんとかここから逃げ出し隊(私設班:高杉、土方)

やはりカマ野郎はよくなかったらしい。カッターの刃に前髪を数本持っていかれ、高杉は身を持って理解した。
銀八の奴は間違いなく班編成を誤った。退屈しきっている沖田を見て土方はしみじみと理解した。

一瞬にして緊張感に満ちた沈黙の落ちた体育用具室に、一つの足音が近づいて来た。カッターの刃がようやく跳び箱の外に引っ込んで、沖田のうれしそうな声が上がる。

「あ、せんせーお帰りなせェ」
「ただいまー。いやなんか小道具班がやばくてさ。ちょっと指導してきたのよ」
「じゃあ俺この班つまんないから小道具班に回してくだせェ。または作戦班」
「うーん、それもいいかもねぇ。でもこれとりあえずお土産ね。首輪と手錠と鞭」

息を詰めて土方と高杉は今しがたまでカッターの刃が差し込まれていた隙間から明るい外の光景を覗いた。手を伸ばせば(実際伸ばせるわけもないのだが)届くくらい近いところに銀八の姿が見え、手には言葉通りのものが握られていて沖田に手渡されようとしている。

(おい、これやばいんじゃねぇの)
(いや総悟が他の班に行けばまだ希望もある)

こそこそと言葉を交わす二人。しかしその祈りも空しく、予想外のお土産に沖田は大満足してしまったようだった。

「うっわぁすげぇや。センセーこれ使っていいんですかィ」
「いーよー。二人で半分こね」
「さすがだぜセンセー。俺この班に入れて幸せでさァ」
「まあお互い楽しくやりましょうってことで。ねえ、お二人さん?」

銀八は屈んで跳び箱の隙間を覗き込んだ。ちょうど土方と高杉が覗き込んでいるのと同じ隙間から。
その顔にはさっきの沖田と似たような、当たらずとも遠からずな笑みが浮かんでいる。

これマジでどうなんの俺たち。

首輪に手錠に鞭。こんなマニアックな道具ばかり作ってしまって何をやっているのか小道具班は。そして本当に球技大会は行われるのか。絶対行われるのは何かもっと別のものなのではないか。
高杉と土方は冷たい戦慄を覚えた。

しかしそこに飛び込んできたのは一人の女子生徒の声。

「ちょっと待ったぁ!」

こちらを覗いていた銀八の顔が小さく強張る。それからすぐに面倒くさそうな顔に戻って、ゆるりと後ろを振り向いた。

「あー、何。どうしたの。自分の班の仕事は?」

銀八がどいたおかげで高杉と土方にも声の主の姿を見ることができた。猿飛あやめだ。

「先生縛るならわたしを縛ってください!」
「つーか帰れ」
「もっと罵ってください。跳び箱の中の軟弱男たちよりわたしのほうがあなたを気持ちよくさせられる自信があります!」

このとき高杉と土方はそれぞれ全く別のことを思った。

(……誰が軟弱男だってぇ?)
(やっべぇあの女。総悟とベストカップル組めるぜ)

そしてそのうち片方が立ち上がった。

「誰が軟弱だこの糞アマ! んなショボイ色仕掛けしやがって目障りなんだよ!」

さっきまで二人で力を合わせても絶対に持ち上がるはずがないと思われていた跳び箱がぐらぐらと今まで以上に大きく揺れ、ついに上にいた定春と沖田ごとひっくり返った。

「うわっ」
「ワン」

転がる一人と一匹を他所に高杉はあやめと向き合った。

「あらあなた、わたしと先生の愛の障害になれるとでも思ってるの?」
「誰と誰が愛し合ってるってぇ? 上等だ女だろうが容赦しねぇぞ。つーかキモいんだよ鳥肌たつんだよこのMが」
「わかってないわね。Mこそが最大の愛よ。ねえ先生?」
「銀八てめぇそんな趣味があったのか。今日という今日はPTAに電話してやろうか。あぁ?」

「え、いや、あの……二人とも?」

なんだかよくわからないが高杉がキれてくれたおかげで脱出できた土方はこの隙に退散することにした。とりあえず状況が把握できず転がったままきょとんとしている沖田を助け起こしてやる。

「下らねぇ。行くぞ総悟。購買で南瓜プリン食わしてやる」
「え、本当ですかィ。俺あと新発売の苺ジャム入りメロンパン食いたいでさァ」
「わかった全部好きなだけ買ってやるから銀八の言うことは今後一切聞くんじゃねぇぞ」
「へーい」

こうして土方は銀八が高杉に気を取られている隙に捕獲隊の主力を買収してまんまと逃げることに成功したのだった。
というよりはじめから高杉が沖田を挑発などしなければこの手ですぐに逃げられていたのである。




準備編だけで満足したので本大会編はありません。ちなみに書かないまま終わりましたが作戦班は坂本と陸奥でした。


06/08/12