拍手小ネタ 21〜25

21.ホントに好きなの?(土沖+山)

新聞というのはバカにできない。案外こちらが把握していないような情報をポロッと拾ってきてくれたりするものだ。
そんなわけで真選組では数紙の新聞を取っているわけなのだが、もちろん付属してくるチラシを抜いてくれなんて我侭は通用しない。
実際のところ買出しの際など役に立ってくれるしあって困るものでもないのだが、休日のチラシの量は半端じゃない。休日が来るたびに山のようなチラシの片づけをする羽目になる。

「副長って犬派ですか猫派ですか」

それはただの世間話で、ちょうどまとめて縛ろうとしていたチラシの一番上がペットショップのチラシだったからというだけの他愛のないものだった。
朝食後の一服をしていた土方はちらりとこちらに目をやって、「どっちかっつーと犬」とくわえタバコのままで答えた。

「へー、そうなんですか。俺はどっちも好きだけど飼うならやっぱ猫かなあ。なんか気品みたいなものあるじゃないですか」
「しかし猫は淡白だぞ。あれは家族より建物を大事にするって言うからな」
「家に憑く、とはいいますけど母親とみなした人間にはすごいよく懐くそうですよ」
「でもやっぱ俺は犬だね。従順だし、何より食いでがありそうだ」
「……食べたらペットじゃないですからね?」

たしかに犬のほうが猫より大きいし食べられる量は多そうだが、なんでこうこの人は損得でしか物事を図れないのだろうか。こういう人にこそ癒しとして猫が必要なのかもしれない。そうなるとこんな人に飼われる羽目になった猫が可哀想だけど。

「ふーん、犬派なんですかィ。俺ァてっきり土方さんは猫派かと思ってやしたぜ」

音も気配もまるでなくどこからともなくゆらりと現れたのは、言わずと知れた沖田だった。寝起きらしく髪はボサボサで隊服のシャツのボタンは2つくらいしか留まっていないし裾はズボンからはみ出ている。更に付け足すと非常に機嫌が悪そうである。

「あ? なんで俺が猫派だと思ったんだよ。つーか服くらいせめてまともに着てこい」

だらしのない沖田の格好を見咎めて注意する土方だが、沖田は聞いているのかいないのかだらだらとした動作で土方の首に両腕を巻きつける。ちょっと羨ましい。

「いやだって土方さん、昨晩もあんなにたっぷり猫をかわいがってたじゃないですかィ」

言いながら頚動脈を締め上げにかかる。スリーパーホールドだ。そういえば最近プロレスに興味があるって言ってたなあと思い出し、山崎は黙々とチラシを縛る作業を続行した。やっぱり全然羨ましくなかったから。

「離せこのアホ! つーか猫なんて俺は知らねぇ!」
「ほーう。しらばっくれるおつもりですかィ。でも俺はちゃんとこの目で見ましたぜ。嫌がる猫を一晩中それはもう楽しそうにかわいがる土方さんのお姿を」
「ってネコ違いだろそれ! てめ、マジで苦しっ……」

あー、やっぱこういうオチ。縛り終わったチラシの束を持ち上げて、山崎は溜息をついた。
声をかけて万が一にでも巻き込まれると嫌なので無言でチラシを捨てに行く。
これを捨てたら沖田の分の朝食を持って来よう。空腹が満たされれば少しは機嫌も直って大人しくなるだろう。

「あー、俺もネコほしいなぁ」

猫でも寝子でもこの際どっちでもいいから、パサパサに乾いた心に潤いをもたらすような癒しがほしい。山崎は切に願い、もう一度チラシの束の一番上のペットショップの宣伝に目を落とした。



22.桜の下には(土+沖)

薄いピンクの花弁。はらはらと舞い落ちる。それはまるで優しい雪のような、モザイクをかけられた血の雨のような。

「おい、総悟?」

背中から呼びかけられて沖田は我に返った。いつの間にか動かしていたはずの足を止めてしまっていたらしい。
見惚れていることに気づかないくらい、見惚れていたということだろうか。

「なんかあったか?」
「いや、そうじゃなくて」

柔らかい風に流され青い空に薄いピンクの弱いアクセントを生み出す。ぞっとするほど美しい景色を生み出す元はただの何の変哲もない一本の木だというのだから不思議だ。

「桜、きれいだなあと思って」
「ああ、そういやもう満開だな。今週末に花見するって近藤さんが言ってたっけか」

少し先を歩いていた土方も戻ってきて、隣に並んで桜を見上げた。
桜の木は一本しかなく後はだだっ広い空間という絶好の花見ポイントなのに、花見客が誰もいないのは『Keep Out』と書かれたテープが四方に張り巡らされているおかげだろうか

「そういえば桜の花びらって本当は白いらしいですね。下に埋まっている死体の血を吸ってピンクになっちまったとか」

たぶん漫画かテレビか何かその辺で見たんじゃなかったかと思う。だから桜の木の下を掘ると、宝箱のかわりに白い骨がざくざく出てくるのだとか。

「ばーか。んな俗説信じてんじゃねぇよ」

土方は軽く鼻で笑ったが、沖田はあながち間違いではないのではないかと思っていた。
だってここは殺人現場だ。それもつい最近、大量の夥しいまでの血が流れた。

「でもこの木、去年より少し赤い気がしやすぜ」

あの日ここで一番多くの血を流させたのは自分で、まだ蕾もつけていない木を見上げて花びらの色を気にしていたのをよく覚えている。

「気のせいに決まってんだろ。じゃなきゃとっくの大昔に、江戸中の桜が真っ赤に染まってらぁ」

たしかに大きな戦なんて今までにも山ほどあって、沖田が生まれるずっとずっと昔から人は桜の木の下でもそれ以外でも殺し合いをしたのだろう。だから殺し合い一つで色つきが大きく変わるだなんて、あり得ないのだと。ホラー嫌いのこの人はどうやらそう言いたいらしい。

「おら、とっとと行くぞ」
「へーい」

歩き出した土方の背中を沖田も小走りで追いかける。
一度だけ肩越しに桜の方を振り返って、怖いくらいにきれいな景色を記憶に焼き付けようとした。

「土方さんはもし桜の花びらが赤くなったとしたら、どんな意味があると思います?」
「しつけぇな。んなもの怨念とかじゃねぇの?」
「そうですかねェ。俺はもっときれーな心を残してくれてるんだと思ってたんですけど」

あの下を掘ってみれば、根っこは血まみれかもしれない。白骨死体とこんにちはするかもしれない。
それでもきっと、自分が桜の木の下を掘ることはないだろう。真実は闇の中、そちらのほうが夢があるような気がするから。



23.要は何が好きかって話(土沖+銀 3z)

日誌を日直が教室に放置していったようなので暖かい職員室から冷たい空気の踊る廊下を経由して放課後の教室までやって来た。
誰もいないと思っていた教室には窓側の列だけ蛍光灯の明かりがあって、消し忘れかどこぞのカップルが密会でもしているのかと仄かな期待を胸に引き戸を開けた。密会乱入は高校教師の楽しみの一つだと思う。

「あ、せんせー」

教室の一番後ろの席にいたのはこのクラスの生徒、沖田だった。彼氏も彼女も一緒ではない。なぜか机の上には毛糸の玉が鎮座している。残念ながら密会ではなかったようだ。

「沖田君たら何やってんの。編み物?」
「うん。マフラー編んでんの」

沖田は素直に頷いて、手の中の小さな毛糸の塊を見せた。まだ5cmほどしか進んでいないが、なるほどたしかにマフラーになりそうな気配がする。

「でもその色、君がするには少し暗すぎるんじゃない?」

沖田の使っている毛糸は限りなく黒に近い紺だった。沖田はどちらかといえば明るいはっきりした色の方が好きなことを知っている銀八は、その色の選択に少し疑問を覚えたのだ。

「いやこれ完成したら土方さんに売るんで」

謎は瞬時に解けた。

「いくら?」
「諭吉一匹」

どこの名ブランドだ。マフラー一つでこの値段とは、土方も足元を見られたものだ。いや、とそこまで考えて銀八はもう一つの可能性に思い当たる。もっとおもしろい真実が隠されているような予感がした。

「なんで編み物なんて始めたの?」
「昨日、暇だって言ったら土方さんが一式買ってくれたんでさァ。で、完成したら買ってやってもいいっていうんで暇潰しに」
「ああ、やっぱそういうこと」

足元を見られたのではなく自分から頼んだらしい。どこまでも余裕のない男だ。普通もっと遠まわしに催促するものだろうに、それともそれではこの頭がカラな少年には通じないからだろうか。

「でもさ、編み物って大変だろ。疲れない?」
「んー、ちょっと目が疲れますかねェ」

言いながら少し眠たそうに欠伸をし、片方の手で目をごしごしと軽く擦って滲んだ涙を拭った。
それから編みかけのマフラーに再び目を落とし、柔らかい笑みを作る。


「でも好きだから」


幸せそうな顔。心からの言葉。
もしかしたら沖田は土方の真意を知っていて引き受けたのだろうかと邪推してみたくなるような。

「こういう細かいことするの」
「……はい?」

倒置法。邪推は一瞬で全否定に変わった。

「いやだから、こういう細かい作業。なんか楽しくないですかィ?」
「そうだねぇ。うん、まあとりあえず先生そろそろ帰るから遅くならないうちに帰りなね」
「へーい。さよならー」
「ばいばーい」

教卓の上に乱暴に置いてあるというよりはむしろ投げ捨ててあった日誌を拾い、銀八はひらひらと手を振って教室を出た。
出たところで、ギョッとして立ち止まる。

「土方君……いつからいたの」

ドアの真横のロッカーに背を預け、体操座りで落ち込んでいる余裕のない男子高校生がそこにはいた。キノコでも体から生えてきそうだ。

「まああれだ。元気出せ。一応マフラーもら……じゃなくて買えるんだし」
「……うるせー。どっか行けぶち殺すぞ」
「大丈夫だって。編み物以下の存在でもきっと生きていけるよ。がんばれ」
「消えてくれ頼むから」

投げやりな励ましをしたら余計威嚇され、銀八はやれやれと肩を竦めてさっきより一層冷たさを増した気のする廊下を歩きだした。青春は本当は青くなんかないのかもしれないと考えながら。



24.地上五階の迷い犬(土+沖 3z「ノスタルジア」その後)

講義終了10分前くらいから、廊下がやたら賑やかだとは思っていた。
女子大生の黄色い声がする。キャーだのカワイーだの、ここは5階なので迷い犬猫の類が入ってくるには地上から少々遠すぎると思うのだが。

「……ってお前かよ」

人垣のはずれから背伸びして中心を見てみれば、空高くというほどでもないが地上からそこそこ高いところまで入り込んできた迷子はうちのペットだった。講義が終わって土方が教室を出てくると予想通り廊下には女がたむろっていて、その中心に壁に背を預けて床に座り込んでいる。

「ねぇ今夜うちらと一緒に遊ばない? うちのサークルかわいい女の子いっぱいいるよー」
「あ、こっちなんかソフトクリーム奢っちゃうんだから」
「んー、どうしよっかな。今日は9時から見たいドラマあるしなー」

すっかり溶け込んでしまっている。よく見るとたった今ここで講義をしていた教授のおばさんまで混じっている。しかもどうやらいろいろ恵んでもらったようで、飴やらチョコやら両手一杯零れんばかりに抱えていた。まさか構内に物乞いが現れるとは大学とは恐ろしいところである。高校だったら考えられない。たぶん。

「ちょっとすいません、通して……コラ総悟、何遊びに来てんだてめぇ!」

とりあえずあの馬鹿を回収せねばなるまい。ここで見てみぬ振りなどしようものなら帰り道がわからなくなって放浪の旅に出てしまいそうな気がする。
女ばかりの人垣を掻き分けてようやく中心に辿り着き、怖い顔で睨みつけてやった。しかしもちろんそれで動じるわけもなく、お菓子をもらえて機嫌がいいのかニコニコ笑い返してきた。

「あ、土方さん。今から昼休みだろィ。勉強教えてもらいに来たんでさァ」

言ってお菓子に埋もれかけている問題集を取り上げる。沖田の苦手な英語だった。本気かどうか知らないが、本人曰く大学を受け直すつもりらしい。
それにしても飛ばして次に進めばいいのにマンションから一時間近くかかる大学までわざわざやって来てしまうとは。いろいろ考えて、小さな溜息を漏らす。

「わかったよ。ほら立て、お菓子もらったお礼はしたのか」
「きれーなお姉さんたち恵んでくれてありがとーごぜーやした。これからデートなんで今度また誘ってくだせェ」

本気とも冗談とも取れる真実を口にして手を振る沖田に、取り巻いていた女たちも笑顔で手を振り替えす。これは沖田が来年受験に受かって入学したらファンクラブでもできそうな勢いである。
なんとなくモヤモヤした気持ちを抱えて沖田の手を引いて歩き、いつもの癖で食堂に行こうとしていたことに気づいて方向転換した。あんな人の多いところにこいつを連れて行ったら次はどんな騒ぎになるか知れない。きっと食事や勉強どころではない。

「どこ行きたい?」
「ラーメンがいい」
「オッケ」

ラーメン食べながら勉強を教えられるかといえば答えは否なのだが、勉強は帰ってから教えるのでもいいかと思った。相変わらず手を繋いだまま人の流れを逆流して学外のラーメン屋へ向かう。

「留守番は嫌か?」
「ちょっと」

最近はいろいろと忙しくて、朝は早いし帰りは遅いしでまともな会話をする暇もなかった。だからわざわざこんなところまでやって来てしまったのだろう。

「悪かったな。あと数日で忙しいの終わるから」
「ん、りょーかい」

そういえば昼休み明けの講義は出席を取らない人で、人数もかなり多い。大人しくさえしていれば容易に紛れ込めるだろう。このままラーメン食べて帰すのも可哀想だし提案してみようかどうか、土方はしばし思案した。あの講義は女性比率が高いのでやはり騒ぎになるかもしれない。



25.せめてこの祈りくらいは(土沖)

始まりを告げる銃声を聞いたのはいつだったか。そんなこと覚えていないし知りもしない。
気がついたら引き金は引かれていて、いつの間にか自分でも知らないうちに溺れるみたいに恋に落ちていて。

誰も本人すらも気づかぬ内に放たれた銃弾は、どこまで飛んでいけるのか。いつまで飛んでいけるのか。

「馬鹿な人だ。永遠なんてこの世のどこにもないんですぜ」

そんな現実的な言葉になんて興味はないし、聞きたくもない。
苦笑まじりの嘲りを返してみせる沖田に土方は少し顔をしかめ、手を伸ばしてその頬に触れた。いつもは見下ろしてばかりいる顔だけど、今日は珍しく見上げている。肉の少ない太ももの上に頭を乗せて膝枕されて、滅多にない景色が少しだけ目に眩しい。

「たとえそうであったとしても、それを望むことまで許されないわけじゃねぇだろ」

それでも本当は知っている。永遠なんてないのだと。
それでもやっぱり望んでいる。永遠があればいいのにと。

それともこれはないものねだりで、あり得ないことを知っているからこそ、こんなにも狂おしく望んでしまうのだろうか。当たり前のようにそれがあったのなら、こんなものはいらないと容易く捨ててしまえるのだろうか。とてもそうは思えないのだけれど。

「あんたは望んでるんですかィ。その、永遠ってやつを」
「お前は望んでないのか」
「聞くだけ野暮ってもんでしょうに」

柔らかく笑んだ沖田の指先が額に降ってきて、髪の隙間に差し込まれる。そうやって何度も髪を梳いている様は、まるで眠らない子供をあやしているようだ。

「さあ、もうお眠りなせェ。仮眠とりたくて俺を枕がわりに呼んだんでしょう」

子守唄でもうたいましょうか、とからかいを含んだ声音で付け加える。それも悪くないとは正直思ったが、本当に疲れていたので今は眠ることにしよう。もう何日も働きづめで、こんな穏やかな時間はとても久しぶりだったのだ。

「ここにいろよ。30分で起きるから」
「はいはい、どこにも行きやせん」

たった30分限り。
永遠なんていうには程遠い、刹那の瞬間。許された約束。

それでもせめてほんの僅かな時くらい、永遠を信じることは許されるだろうか。
もしも永遠が許されるなら、何に祈ったっていいのに。柄じゃないと笑われようと、全身全霊で祈るのに。

「ねぇ土方さん、永遠なんてあったらきっと飽きちまいますぜ。何事にも終わりがあるから楽しいんじゃないですかねィ。だって終わりがあるから、また始められるんですよ?」

まるで子守唄のように、そんな言葉を夢心地に聞いた気がした。




沖田は現実を自覚した上で夢を描き、土方は理想を求めて夢想するタイプだと思う。
このあたりのプチショートは割と気に入っています。

06/10/14