真選組全滅ネタです。全員例外なく死亡していますよ。 それでも問題ない方のみスクロール ↓ ↓ ↓ 屍の丘 大地を埋め尽くさんばかりにたくさんの人間が転がっている。敵も味方も重なり合ってもつれ合って、まるで出来の悪い芸術作品みたいに。 こんなにたくさんの人がいるのに、静寂という水面に波紋を立てるのは冷たくも安らかな風と、たった二つの呼吸音のみ。そのうちの一つは自分のものだったから、光に向けて飛んでいく虫のようにただ無心に、もう一つの呼吸のする方へ体を引きずって歩いた。 一歩踏みしめるごとに、ぼたぼたと命の雫が屍の上に足跡を残す。敵も味方も気にせず踏みつけ、時には足が誤作動起こして転んで、きっとまだ生きている会いたくて仕方ないあの人の姿を探した。 「土方さーん、もう死にましたー?」 転んだまま休憩がてら屍の上に寝転がり、仰向けになって呼んでみる。さっきより少し近くなった呼吸を運んでくれる青い空へと向けて。 「んー……あともうちょい」 「俺もー」 返事をしてよっこらせとまた立ち上がる。しかしそろそろ足が役目を放棄しだして歩くのもしんどくなってきたので、四つん這いならぬ三つん這いで前に進むことにした。 てめーも歩けよクソ土方、毒づいたら無理だがんばれクソ沖田との返事がすぐさま返ってきて、意地でも行ってぶん殴ろうと心に決める。 一つ、また一つと屍の上をぐちゃぐちゃいわせながら這って這って、どれくらいそうしていたのかはわからないけれど、とにかく最後にはやっとあの殴りたくて仕方なくなったあの人の姿を見つけた。 やっと会えたことにホッとして泣きそうになってしまって、そんなこと悟らせてやるものかと取り繕った。いつも通りの下らない意地を張って。 「とーちゃくーっ。おめでとう俺。がんばった俺」 「ご苦労だな。でも自画自賛は恥ずかしいからやめておけ」 それにはへへ、と笑って答えて、沖田はばったりと地面に倒れこんだ。幸いにも土方の隣にはずうずうしい屍がいなくて、沖田という屍のために用意されたみたいなスペースがぽっかりと空いていた。 「なんでィ土方さん。体中穴だらけですぜ。ニューファッション?」 「うるせ。そういうお前は左腕どこに落としてきた」 「さあ、気づいたらどっか落としてきた後でした」 二人ともボロボロだった。土方は全身を銃に撃たれていて、沖田は左腕がもげてなくなっている。もちろん他にも大小たくさんの傷があるし、いろんな人の血を浴びてずぶ濡れだ。なんでまだ生きてんだろ、二人してお互いの姿を見て笑う。 「あーあ、終わっちまったな、真選組」 「敵さんと相打ちで全滅ですからねィ。こりゃマグロ業者さんは大儲けでさァ」 「全くだ。うちなんかお前の破壊行為のせいでいつも火の車だったってのに」 「あはは」 土方の口調がどうにも本当に悔しそうだったので、おかしくて沖田は笑ってしまった。お前が笑うなと言いながらも土方もやはり笑っている。もう終わってしまったから、笑うことができる。 今までで一番大きな戦だった。こちらも向こうも戦力総動員して、ありとあらゆる武器や戦法を駆使して戦った。そして待っていたのはこの結果だ。まあ負けるよりはましだし、こちらの数倍はいた勢力相手によくやったのではないかと思う。 「近藤さんその辺に落ちてねーかな」 「落ちてねぇよ。不意打ちから隊士たち庇おうとして真っ先に死んじまったじゃねぇか。だからいるとしたらもっと後ろの方だろ。てか、落ちた言うな」 「自分でも今言ったくせに。そういや俺さっきそこで稲山さん見た。というか踏んだ」 「あ、俺山崎見たな。近藤さんの割と近くで」 「マジでか。あんたのとこなんか行かねぇで俺そっち行けばよかった」 「この期に及んでてめぇ……」 そんな沖田の軽口に苦い顔をする土方。 しかしこれだけ人がたくさんいるのだからほかに寝転がれる場所はきっと空いていないだろうし、そうでなくてもたぶん自分はここに来たと思うから、どうせなら最後くらい素直になってやろうかと思い、「嘘でさァ」と言ってあげた。しかしこれには「知ってるよ」と余裕ぶった顔で言われ、やはりなんだか悔しくなる。 だからあえて別の話題を振ってみた。どうせもう残された時間も少ないのだ、沈黙なんてもったいない。 「それにしても、この国はこれからどうなるんでしょうね」 「さぁな。今までみたいにのらりくらりやってくんじゃねぇの。どっちにしろ俺たちにはもう関係ねぇよ」 そう、特に感慨深くもなさそうな答えが返ってくる。確かにもうどうでもいいなと沖田もそれに納得して頷いた。 それから少し霞んできた視界の中心にある土方の顔を見て、ああ俺たち死ぬんだなと改めて思う。それなのに少しも怖くないのは、きっとみんなが一緒だから。この人と一緒だから。 「ねぇ土方さん。死んだら何したい?」 なんとなく聞いてみたら、少し考えてから土方は答えた。 「つーか何ができるんだよ」 「俺が知るわけないだろィ。最後まで馬鹿ですかあんた」 「うっわ殴りてぇ。死ぬ前にすっげーお前を殴りてぇ」 「じゃあ死ぬ前にしたいことは同じってことですねィ」 言ってニヤリと口の端を持ち上げれば土方も同じ表情を返してくる。しかし沖田が残ったほうの手は果たしてまだ動くかと動作確認しかけたところで、土方はふっと表情を和らげてこちらに手を伸ばしてきた。血塗れの、まだぬくもりを宿したそれを。 大きな手が頬を撫でる感触が気持ちよくて目を閉じる。隣の土方が少しだけ動いてこちらに近寄った気配がする。そしてすぐに血でパサついた髪に手が差し入れられてそっと、いつものように唇を重ね合わせた。 たぶんこれが最初で最後の煙の味のしないキス。血の味ばかりでおいしくない、それでいて今までで一番感情のこもった。 「これで我慢しとけ。お互い殴られた瞬間に死にそうだからな」 「……そいつァ違ぇねーや」 くすりと笑って、額をこつんとぶつけてみた。残った方の手を気合で動かして自分も土方の頬に触れてみる。温かい。きっともうすぐ二人揃って冷たくなってしまうけれど。 「土方さん、俺のこと好きでした?」 少し眠くなってきたなと思いながら、眠る前にどうしても聞いておきたかったことを尋ねた。 今まで怖くて一度も聞けなかったけど、今やっとその答えがわかった気がしたから。だからこれは、ただの確認。 「好きだった。誰よりもお前を一番愛してた」 「うん。俺も、あんたのこと好きでした。そんでもって、たぶん愛してた」 長い長い時間をかけて、やっと辿り着いた結論。少し遅かったかも知れないけど、最後の最後、ぎりぎりで辿りつけた。知ることができた。自分たちは愛し合っていたのだと。 だからここで二人で冷たくなってしまっても、怖くないしきっと幸せ。 「土方さん……手、繋いでもいいですかィ」 「ああ」 まだ頬を撫でていた沖田の右手を土方の左手が捕まえる。その手の平の懐かしい感触と優しい温度に更にうとうとと眠りを誘われた。それでもがんばって起きていようと、重くなった瞼を必死に持ち上げる。まだ寝たくない。もっと二人で話していたい。 「眠いのか」 「はい……」 「俺も、眠くなってきた」 「じゃあ競争しましょうぜ。どっちが長く……起きてられるか」 「わかった……じゃ、競争な……」 そう頷く土方も眠いのか何度も瞬きを繰り返していて、沖田も真似して同じことを試してみた。しかし瞬きする度に、目の前の土方の姿が霧に包まれてぼやけていってしまう。 それでも眠ってしまわないよう残った力全部つかって繋いだ手を握り締めて、「よーいどん」と密やかに声をそろえて唱えた。 今までたくさんケンカも勝負もしたけれど、これが本当にラストバトル。 だから眠ってしまわないよう、途切れ途切れにいろいろな話をした。昔のこと、最近のこと、それからほんの少しだけこれからのこと。 しかし会話の間隔は次第に少しずつ長くなっていって、やがてどちらともなく静かになって、最後には静寂を震わせるのは冷たくも安らかな風だけとなった。 勝敗の行方は眠る二人にもわからない。ただ手を繋いで眠る二人の姿はきっと、他のどの屍よりも幸せそうにしていただろう。 おやすみなさい―――― 二人とも文句なしに幸せなのでハッピーエンドです。 今までずっと愛し合っていることに確信を抱けなかった二人がやっと両思いになれたという設定でした。 それにしてもこの人たちは何と戦っていたのだろう。 06/12/05 |