拍手ログ36〜40 36.白雪姫物語(姫:土方、王子:沖田、小人:万事屋一同) いつものように小人たちが仕事から帰って来ると、そこにはなんと白雪姫が倒れていました。それを見て小人たちは大層悲しみました。 「おいおい、なんだよこれ。立派な嫌がらせじゃねぇか」 「そうアル! どうせなら生ゴミばら撒いてくれれば空腹を満たせたネ!」 「って違うだろあんたら。これどう見ても事件でしょうが! つーか小人Cってば生ゴミ食べる気!?」 ぴくりとも動かない白雪姫のことを思い、小人たちはこれからどうしようかと口々に言い合いました。それはもう好き勝手に。 「いや待て小人B。人間極限にまで追い込まれればどんなものだっておいしく食せんだよ」 「さっすが小人Aアル。わたし早速ふりかけ持ってくるヨ!」 「だからマジで食う気かよ! てめぇらもう小人じゃねぇよ人食い妖怪だよ!」 「違ぇってカニバリズムの気がある腹ペコ小人A〜Cだよ俺たちはさぁ」 「大体よぉ、お前だって本当は腹減ってんだろ小人B。吐いちまえ、いやむしろ食っちまえ楽になるぞー」 「うっ……」 貧乏で食べるものにも事欠いている小人たちは白雪姫を見下ろして、ごくりと喉を鳴らしました。口ではなんと言おうとやはり人間を食べるのはかなり抵抗がありますが、少なくともこれを食べれは明日の朝日は拝めます。それに白雪姫というでかいゴミも片付きます。一石二鳥です。 と、そんなところに偶然通りかかったのは隣国の王子でした。貧乏人が貧困に喘いでいるところを嘲笑おうと思ってノリで旅に出て通りかかっただけなのですが、その瞳が白雪姫を映した途端、姫のあまりの美しさに王子は息を飲みました。 「こ、こいつァなんてきれいな……!」 そんな台詞がポロリと口から零れます。衝撃によろめきながら小人たちを掻き分けて白雪姫に近づきます。そしてその手は恐る恐る白雪姫に、否、腰に帯びた立派な剣に伸びました。 「いけねーなァ。こんなきれいな死体じゃ生き返っちまいますぜ」 その一言のもと、王子は何のためらいもなく白雪姫に剣を振り下ろしました。 「ああっ、食材の鮮度が!」 仰天する小人たちですが止めに入るのは間に合いません。ああ、なんということでしょう。彼らの今夜の晩御飯は通りすがりのセレブ(というか王家の血筋)に奪われてしまうのでしょうか。 しかしこの時、王子の愛、もとい殺気が奇蹟をもたらしました。日頃から王子に苛め抜かれている白雪姫の本能が姫を目覚めさせたのです。 目覚めた白雪姫はぼんやりと眼前を見据え、そして―― 「ってオオオイイィィィィィィ! 何してんのお前ェェェェ!」 「いや今のうちに止めさしておこうかと」 起きて早々真剣白刃取りを強いられた白雪姫に、王子はなんでもないことのように言いました。心底悔しそうな舌打ちをのせて。 「まあそんなわけで止め刺されてくだせェ」 「刺されてたまるかァァァァ!」 白雪姫も王子に負けずに心底いまいましい思いで叫びました。 そして心底うざがっているのが三人の小人たちです。夕飯を逃した挙句、家の前で痴話喧嘩など繰り広げられてしまっているのですから。 「ちょっとー、人んちの前で迷惑なんですけどー。つか営業妨害で訴えるよ君たち」 「あ、すいやせん。すぐ移動しまさァ」 と、いうわけで小人たちの苦情により二人は新たに家を建て末永く不仲に暮らすことになったのでした。 そこに愛はあったかもしれないし、なかったかもしれません。少なくとも白雪姫の哀ならば胃に穴が開くくらいにありました。 37.この宇宙の誰よりも貴方だけが愛おしい(土沖) 「お母さーん、疲れたぁ。抱っこー!」 「はいはい、仕方ないわねぇ」 言って少し苦笑して割烹着を着た優しそうな母親は、特に困った風でもなく総悟と同じくらいの年頃の小さな娘を抱き上げた。そして二人で楽しそうに笑い合いながら歩いていく。 その二人から何故だか目が離せなくて、気がつけばずっと目で追い続けていた。しかし不意に両足が大地を離れ、宙を掻く。後ろを振り返るといつもよりずっと近くに土方の顔があって、そこでようやく抱き上げられたのだと理解する。 「母親代わりにゃなれねぇから、これで我慢な」 「あ……」 考えていたことを完璧に見透かされていたことに驚いて、それから申し訳なく思った。今のままでも十分に幸せなのに、小さなことで気を使わせてしまったことに。 「あ、あの、土方さんっ」 「んー?」 「俺ね、俺――」 確かこの後土方は笑ってくれたような気がする。とても、とてもうれしそうに。 見慣れた天井。肌に擦れるシーツの感触。夢を見ていたのかと、ぼんやりした頭で思う。それからふと気がついて顔に手をやって、自分が寝たまま泣いていたことを知った。 子供の頃の夢を見ていた。悲しいことなんて一つもなくて、今までで一番幸せだった、もうきっと二度と帰れないだろう日々を。 今が不幸というわけでは決してない。ただ時々、ほんの少しだけ恋しくなるだけ。あの頃の自分が仲の良さそうな親子から目が離せなくなったのと同じように。 「嫌な夢でも見たのか」 すっと、横から伸びてきた手。長い指が頬に添えられ、親指が優しく目元を拭う。それが済むのを待ってから横に寝返りをうって、夢で見たより少しだけ年をとった顔と向き合った。 「いえ、なんでもありやせん」 ただあまりにも幸せすぎただけ。今が不幸だなんて一度も考えたことはないから。 それでも無性に触れてほしくなって、自分から少し近づいた。鎖骨の辺りに額を押し付け、猫のように甘えてみる。 「なんでもないから、ぎゅってしてくだせェ」 「いいけど、また反応しても責任とんねぇぞ」 「えー」 冗談のつもりか怪しいその言葉に沖田は少し笑ってしまった。昨日あれだけ激しく繰り返しておいて、懲りないのはお互い様だなあと。 「あのね、土方さん」 「んー?」 顔を上げる。腕を伸ばす。そして頭を捕まえて口付けた。 「俺は土方さんがよかったんでさァ」 夢の中で、遠い昔に告げた言葉。今では少しだけ意味が変わってしまったけれど、本質だけはずっと変わらないように思う。 果たして土方があの日のことを覚えていたかはわからない。ただあの日と同じようになんとも言えないうれしそうな顔で笑って、抱きしめて口付けをしてくれた。 今はあの頃のように楽しいことばかりではないけれど、それでもあの頃と同じように、あるいはもっと、自分は幸せなのだと思う。だってこの人のかわりなんて宇宙のどこを探してもきっと見つからないだろうから。 38.とびきりに甘い罠(土沖(初期)) 手帳を開いて溜息をついたのは、何もそろそろ過労で倒れるんじゃなかろうかという鬼スケジュールのせいだけではなかった。 問題なのは、むしろ2月14日という日付の方である。 つまり今日は、俗にいうバレンタインデーという奴だった。年に一度、女が意中の男にチョコレートを送る日。 多くの男たちが今日という日に全てを賭け、この日のために事前から如何にしてチョコレートを得るか策を巡らす。いわば生活空間全てが戦場に変わるも等しい。 土方もそんな哀れな男たちのうちの一人で、しかし真選組の頭脳とも言われるその知略をもってしても、愛を勝ち取るこのミッションだけは毎年辛酸を嘗めさせられているのだった。 相手が悪いと人は言う。自分でもそう思う。だが仕方ないではないか。これだけは理屈で選べるものではないのだから。 「何難しい顔してんの? なんかやらかした?」 まさか自分が原因だとは欠片ほども自覚してはいないのだろう、いつの間に現れたのか最愛にして最大のストレスの種、沖田は小さく首を傾げて土方の顔を覗きこんできた。 出没早々アップは心臓に悪いので勘弁してほしい。近い、と叫びそうになったのをなんとか飲み込んで思う。 「やらかさねぇよ。お前と一緒にすんな」 いろいろ理性との戦いが辛いので離れてもらおうと、手で沖田の顔を押しやる。沖田の方も土方がこういう行動に出ることは学習済みだったらしく、さして抵抗するでもなく大人しく引き下がってくれた。これで理由まで学習してくれたなら完璧なのに。 「……つーか何食ってんのお前」 また溜息をつきかけたところで沖田の手にしているものが目にとまり、土方は指差して尋ねた。 沖田が体格と性別の割に燃費の悪いことはもはや周知の事実で、間食していること自体は珍しくはない。しかしそれがチョコレートケーキとなると、やはり話は珍しい部類に入るだろう。よく食べる分、腹に溜まりやすく食べ飽きないものをどか食いするのが常なのだ。 「あのね、うちに差し入れだって。いっぱい届いたから山崎が切り分けてくれたらしいんだけど一人分足りないから、女に困らない土方さんと他に食料のあるあたしは半分こなの」 「ああそう。ところでどうでもいいんだが、俺の半分とやらはどうなってんだ? 丸々一個食ってんじゃねぇかお前」 呆れ混じりに尋ねると沖田は一つ頷く。そしてまたぱくりと小さくかじりつき、残ったケーキをいつになく真剣な目つき観察してもう一度頷いた。 「よし、ちょうど半分食べた。あとは土方さんの分ね」 はい、と口の前に差し出されたのは半分食べかけのチョコレートケーキ。わざわざこんなことをせずともはじめから包丁で切り分ければよかっただろうに、これは誰の陰謀だ。山崎か。 「……くれんの?」 「うん。てか、土方さんの分。ほら、あーんして?」 皿もフォークも何もない、半分食べかけのそれは沖田の手から土方の口へと差し出された。 心臓の鼓動でも聞かれようものなら今すぐ切腹してしまいたい。混乱を必死に押し留め動揺を悟られまいとし、小さく口を開けた。がぼ、と若干乱暴にケーキは押し込まれ、口の中に甘みが充満する。 今日は2月14日。もらったのはチョコレートケーキ。この陰謀が仕事の能率アップを見込んだ山崎の策ならば、今度何か振舞ってやらねばなるまい。あるいはミントンを今週だけは見逃してやろうか。 愛は今年も得られなかったし山崎のお膳立てではあったけれど、チョコレートケーキはやはりとびきりに甘かった。 39.春色少年(土沖) 柔らかい日差しの差し込む部屋は太陽の匂いがする。土方の苦手な寒さも熱さもない、春という季節に愛しささえ覚える。そして同時に、こんな気持ちのいい午後に仕事で部屋に詰めている自分が可哀相だと思った。 だから、せめてもの慰めに春を知る者を呼んだ。 「春が来た」 顔を見るなりそう言ったら、沖田は不可解そうに首を傾げ哀れむような眼差しをくれた。 「可哀相に。仕事のしすぎでついにおかしくなっちまったんですね」 春はもうとっくに来てましたよ大丈夫俺がすぐ楽にしてあげますから。平坦な口調で続けてすらりと刀を抜く沖田。それでも土方はこれといった対策を講じようとはしない。こういう時の自分に沖田が本気でひどいことはしないことを学習しているのだ。もっともそれが本当に優しさなのか、万全のときに殺すことにこそ意義を見出しているからなのかは定かでないが。 「なんでィ。つまんねーの」 ノーリアクションの土方を見て、不服そうに唇を尖らせ刀をしまう。立っていた場所に腰を下ろしたときにふわと髪が揺れ、新しい草木の放つ香りがした。 「お前どこにいたんだ今まで」 「土手で寝てやした。あんたの着信に起こされるまでは」 だからこんなに春の匂いがするのだろう。沖田の隊服に鼻を押し付けてみたらまるで外にいるような気分になって、うれしくて膝の上に頭をのせるような形でぎゅっと抱きついてみた。 「総悟君、何かほしい物言ってごらん」 「えー、じゃあピザまん。援助してくだせェ、パパ」 猫なで声で尋ねてくる土方をおかしそうに見下ろして、あまり春らしくない注文をする。語尾にハートマークをのせてパパと呼ぶ辺り土方の持ち出した言葉遊びを理解しているらしい。 「つか、まだ売ってんのかそれ」 「へい。コンビニは割とまだ」 「わかった後で買ってやるよ」 それで取引は成立だった。土方は沖田に膝枕をされて、うとうととしてくるのに身を任せる。もう春色の夢の世界はすぐそこだった。 「30分で起こせ」 「おやすみなせぇ。永遠に」 不穏な一言を最後に耳にして土方の意識は溶けていく。眠っている間もずっと春の日差しや草木の匂いと、童謡を口ずさみながら優しく髪を梳いてくれる、春を纏った少年の気配を感じていた。 40.精神安定剤と禁断症状(沖+山) 煙草の匂いがする。今は出張でその部屋の主はいないはずなのに。 「誰かいるんですか?」 閉ざされた障子に向かって声をかけると、ガチャンという奇妙な音が返ってきた。一緒に小さな声が聞こえ、山崎は呆れ交じりの苦笑をもらした。 「開けますよ、沖田さん」 一応断りを入れて障子に手をかけると、そこにいたのは予想していたとおりの人物で畳の上に寝転がった後ろで灰皿がひっくり返って畳を汚していた。 「よ、よう山崎。土方さんなら留守だぜィ」 「知ってますよそんなことは」 平静を装っても無駄だ。大抵のことなら見なかったことにして共犯になってやるけれど、さすがにこれは見逃すわけにはいかなかった。警察だとかそれ以前に、そんな体に悪影響を与えることは許しておけない。 「後ろの、ちゃんと火消えてますか」 「……おう」 隠したつもりがバレバレで、沖田は罰が悪そうに大人しく灰皿と半分くらい畳に散って少なくなった中身を献上した。 一人でどれだけ吸ったんだと灰皿と畳を見て思う。ついでに畳は主が帰ってくる前に復元できるかと思い悩んだ。灰に混じって黒を散らしている焼け焦げた痕は、さっきのガチャン何をやらかしたのかを無言で語っている。 「怪我はありませんか」 「手の平やっちまった。山崎が突然来んのが悪いんだ」 「隠れてこそこそ吸っているほうが悪いに決まっています」 開き直ってしまった沖田に山崎は溜息をついた。保護者がいないとすぐにこれだ。 こちらに向かって差しだされた手の平は畳と同じように火傷の痕があり、大したことはなさそうだが留守中に副長様のお気に入りを傷物にしたなどと言うことになれば確実に痛い目を見るだろうと思ったので有無を言わせず水場まで連れて行き蛇口を一杯に捻った。悪くないのに、いつだってこういうことのお咎めを受けるのは何故だか自分だから。 「痛ぇ」 「そりゃそうでしょうよ」 「なんて危ない玩具だろう」 「玩具じゃありませんあれは」 本気なんだかふざけているんだかよくわからない口調に山崎はぴしゃりと言い返した。もっとも煙草を吸うことがどれだけいけないことなのかなど、あのヘビースモーカーの背を見て育ったこの人に説いても所詮無駄かもしれない。せめて説教するのが自分でなくもう一人の保護者であれば、ゴリラであろうとストーカーであろうとそれなりに効果があっただろうに。しかし万が一にでも告げ口などしようものなら想像するのも恐ろしいほどの報復が待っているに違いない。 「あーあ。うるせぇなー山崎のくせに」 言いながら冷やしていない方の手で当然のようにポケットから白い箱を取り出すのを見て、山崎はすかさずひったくってやった。 「てめ……」 「未成年でしょう。副長にチクりますよ」 それまで少しも反省の色を見せなかった沖田がわずかに表情を変える。そんなことをする前にと口封じされないかこちらも気が気でないのだが、変装と演技も武器の一つである監察としてはここでそれを悟られるわけにはいかない。なんで屯所内でこんな命がけのミッションをやっているんだとも思いつつ。 「……だって、それないと落ちつかねんだもん」 拗ねたように手の平を濡らす水の流れに目を落とす。そんなことを言っていつもは吸っていないでしょうと喉まででかかった言葉は飲み込んだ。沖田が意地で言えずにいることを掬い上げた気がして。 おそらく沖田が欲しているのは本当は煙草ではなく、それをいつもくわえている人のほうなのだ。待っているのに疲れてしまって、煙の中に幻を生もうとした。まるでどこかのマッチ売りのように。 そのことを理解してしまうともう怒る気なんて失せてしまって、苦笑するしかできなくなった。だってそれなら悪いのは出張に出かけたままろくに連絡を寄越さない土方の方だ。 「黙っていてあげるかわりにこれは没収しますよ。どうせ副長の部屋から盗んだんでしょう」 「けちー」 「次見つけたら今度こそ言いつけますよ?」 「……すいませんでした」 奪った箱を自分のポケットにしまい、きゅっと蛇口に栓をする。濡れた手にハンカチと、反省のご褒美にメモを落としてやった。 「何これ」 「副長が、予定より少し早く帰れるそうです。それで誰か荷物持ちに駅まで迎えに来てほしいとか」 「いつ帰んの!?」 「明日の朝一番の電車だそうです」 「マジでか!」 ぱぁっと明るくなる表情にこちらまでうれしくなってくる。火傷をしても表情一つ変えない人をこんなにも人間らしくしてしまうなんて、そんなにも思われている土方が羨ましくなった。 没収した煙草のことは、副長の迎えという憂鬱な仕事を交代することで黙っていてあげようと思う。ただし、あの畳の復元までは今からではちょっと保障できないけれど。 初っ端に愉快なものがありますがもっと愉快なのは更新の日付と内容とのギャップかもしれません。 07/10/08 |