それはある任務を終えて報告のため春雨へと帰還する、その途中のことだった。 「食料が尽きかけてる?」 一体あとどのくらい残っているのかと尋ねると一週間という答えが返ってくる。ちなみに春雨まではあと五日ほどの道のりで、この二点を見る限りでは何も問題は見当たらない。しかし我らが第七師団には一つのイレギュラーが存在するのである。 「団長込みなら何日だ?」 「ギリギリまで押さえて、三日くらい……」 「マジかよ」 ここで言うギリギリは、神威が機嫌を損ねて暴れださないギリギリのところという意味である。神威は空腹になると機嫌が悪くなるが、逆を言えば食べ物さえ与えておけば比較的大人しい。それでも阿伏兎は暇潰しの相手をさせられたり日々の仕事の邪魔をされたり、それなりの迷惑を被るのだが少なくとも無駄に同族の数が減ったり宇宙船が沈みかけたりするような事態に陥ることはない。 しかし今、その大事な命綱ともいえる食糧が尽きかけているというのである。いつもあれほど食べ物は切らさないよう言ってあるのに。誰のミスだが知らないがもしものときは真っ先に犠牲になってもらうしかない。 「この辺に補給のできそうな文明のある星は?」 「それが、すぐそこに未開の星が一つあるくらいで……」 これは困ったことになった。阿伏兎は報告にやって来た団員と一緒に頭を悩ませた。もしも食べるものがないなどと神威が知ったら一体どんな行動に出るかわかったものではない。だから神威に気付かれる前に一刻も早く手を打たねばならない。 しかし阿伏兎のよく知る神威とは悉く空気を読まない生き物なのである。そしてその特性は時として偶然という形でも作用する。たとえばこんな風に。 「何の話?」 「げ」 背後でした声に思わず呻き声が漏れた。振り返ると最も話を聞かれてはならない存在、食欲の権化にして戦の申し子、神威が完璧なまでの笑顔でこちらを見上げていた。 「だ、団長……」 「なんかもうご飯がないとか聞こえたんだけど?」 「いやあ、それは、その……」 言葉を濁し、団員Aと二人して明後日の方角を見やる。しかしそんなことをしたところでなんの意味もない。神威は阿伏兎だけを見つめたまま、もう一度はっきりと問う。 「ないの?」 「……あんまり、ない」 「ふうん」 てっきり烈火のごとく怒り出すかと思いきや、神威の反応は予想以上にあっさりしていた。それどころか、ちょうどよかったとニコニコして言うので阿伏兎はぎくりとして身構えた。怒り出さないのはよかったが、これはまたとんでもないことを言い出すぞと今までの阿伏兎の経験がシグナルを鳴らしている。 「ご飯がないならあの星に降りて調達すればいいよ」 神威がそう、指先を向けたのは宇宙船の小窓の向こうに見える未開の惑星だった。 |