一年後のイブ 1 沖田にとって今日は大事なドラマの最終回の日で、それ以上でも以下でもなかった。しかしそれが少数派の意見であったことを、自然界ならおよそありえないようなことになっているモミの木を見上げてようやく悟ったのだった。こんな寒い夜更けなのにやたら人が多いとは思っていたが。 「そっか。今日ってイブでしたっけ」 「はっ……? お前、なんだと思ってたんだ!?」 何気なく呟いたら隣にいた土方が信じられないという顔で見下ろしてきた。珍しく外で食べようなんて言うからおかしいと思ったら、もしかしてそういうことだったのだろうか。 「ひょっとしてこれ、クリスマスのお誘いでした?」 「そうだよ……俺イブ空けてって言ったじゃんちゃんと」 「そうでしたっけ? 一週間以上前のことはもう忘れやした」 「どうりでお前……」 どうりでさっきプレゼントを貰ったわけだ。何祝いかわからないけど貰えるものは貰っておく主義なので何も聞かずに受け取って装着してしまった、新品の腕時計の意味をやっと理解した。貰うだけ貰って何も返さなかったから、変な顔をされたのだ。 「もしかして俺も何かあげるべきでした?」 「いいよもう……お前に期待した俺が馬鹿だった」 「はあ」 確かにあげようにも今の今までそんなこと思ってもみなかったのだから何も用意していない。そもそもクリスマスに誰かとプレゼントを交換するようなこと自体したことがないのだ。 しかし自分だけ貰うというのもやはり具合が悪いだろう。かといって俺をあげますなんてのもサムすぎて萎えるし、他に何かいいものはないだろうかた。何かお菓子の一つでもあればとコートのポケットをごそごそやる。するとちょうどいい物体を発見した。うん、これはいいかもしれない。 「土方さん、これあげやす」 青い携帯電話を土方の目の前に差し出した。ぶらりと振り子のように不気味な人形のストラップが揺れる。薄ら笑いが今日も素敵にホラーだ。 「え、ケータイ?」 「は、あげやせん。ブッキーなストラップの方」 これはちょうど数日前、偶然にもゲーセンで出会ってしまったものだった。何かのキャラクターなのかもしれないが名称は不明。こいつを入手したとき一緒にその場にいた高杉が大爆笑しながらブッキー君と名づけてくれた。特徴は、ひどく不気味。胸ポケットからこいつだけ外に出して歩いていたら今日までにすれ違った子供に三回ほど泣かれた。破壊力抜群である。ちなみに名誉のために言わせて貰えば沖田がほしかったのはこれではなく、これのすぐ隣に会ったかわいこちゃんの方である。ああ口惜しい。 「……ええと、くれんの?」 「俺これいらないんで」 「なんだかなあ……」 「いらなきゃそう言ってくれていいですぜ」 沖田としてはいらないので厄介払いするちょうどいい機会だったのだが、よくよく考えて見ればクリスマスプレゼントにするにはブッキー君はあまりにも禍々しすぎた。これでは半分嫌がらせになっていることに気付いて、土方に嫌がらせをするのは正直なところ大好きだけどこれは別にそんなつもりじゃなかったので、クリスマスだし、せっかくだから退路を作ってあげた。だって冷静になって考えるまでもなく、沖田ならクリスマスプレゼントにこれはいらない。サンタクロースがこんなものを枕元に置いていったら翌年はサンタに毒入りクッキーを差し入れることだろう。 だからてっきりつき返されると思っていたのに、意外にも土方は礼を言って受け取ってくれたのだった。怖いもの駄目なくせに。そこまでして受け取らなくても別に怒らなかったのに。とにかくこうしてブッキー君は沖田の青い家から新しくシルバーの家へ嫁いでいったのだった。 「明日以降でよければ俺ちゃんと何かあげますけど」 新品時計の対価がこれでは流石に申し訳なくて(もっともついさっきまで何祝いかも確かめぬまま一方的に貰っていたわけなのだが)そう言うと、正体不明のブッキー君を不思議そうに顔の前に持ってきておっかなびっくり観察していた土方はそれじゃあと沖田に言った。 「来年こそクリスマスやろうぜ」 「えーめんどい」 「てめ……即答かよ」 だって一年も先のことなんて、高校生の我々には遠すぎる。そんな先まで一緒にいてくれるのかと心の中では驚いていて、もし有限実行されたら今度こそちゃんとしたものを贈ろうと心の中で誓いを立てた。 一年後、の一ヶ月くらい前。11月末。 どうして世界の共通語は日本語ではないのだろう。日本人の子供なら誰もが一度はその事実を呪うのではないだろうか。 せめて二期制であったならまだ次があったのに。自分のあまりの英語の駄目さに絶望する。しかも今日は試験初日で、まだあと三日もこの絶望は続くのだ。ああ、へこむ。 しかし沖田が唯一試験において素晴らしいと思うのは、学校が午前中で終わることだ。今は昼休みでこれが終わればもう今日はおひらきになる。帰っても勉強漬けにならざるを得ないとしても、いつもより早く帰れるというのは少し浮かれた。帰ったら大事にとってあるエクレアを食べよう。 それにしても、暇だった。どうせもう終わるのだし荷物になるから弁当は持って来ていない。おまけにいつもなら一緒に弁当ない組の土方は試験が終わると共にどこかへ消えてしまい、なんだか一人ぼっちだった。ついでに悪友の高杉も担任の奴隷として働かされているのでいない。他は弁当組なので駄目だ。羨ましくなる。 そんなわけで絶望と暇に打ちひしがれて机に突っ伏していると、明日の分でギチギチに膨れた鞄がぼんやり光って震えた。やべえ切ってなかった俺友達いない子で助かったと悲しい喜びに浸りながら、傷だらけの青い相棒を取り出す。メールの送信者は行方不明中の土方で、さては遭難でもしたかとアホなことを考えたけど全然違った。むしろこれは、遭難フラグだ。 『悪いけど当分うちにこないでほしい。連絡もしないで。学校でもしばらく距離を置いてくれ。理由はいえない。追伸、俺を信じて。』 なんのことだかさっぱりだった。どうツっこんだらいいのかと首を捻る。いつもボケ担当なのでいいのが浮かんでこない、などと空腹でいまいちよく回らない頭で考える。しかもちょうど他クラスの女子が半泣きでやってきて教室は騒然となり、更に考えるのが面倒くさくなった。もう後で本人締め上げて確認した方がカロリー節約になるんじゃねえの。 「聞いて! あたし、土方君と付き合うことになった!」 耳障りな声に驚いて相棒を床に落とした。また一つ傷が増えたに違いない。 友人に報告する彼女の声は、おそらく廊下にまで響き渡っていたことだろう。その他大勢が彼女に注目する中で、沖田だけが気がついて誰よりも早く、たった今教室に戻って来たその姿を見つけた。何も言わずに出かけていった理由を今更理解する。 目が会うと唇がごめんと形を作った。それから渦中の彼女の元へ歩いていく。 ああ、そう。そういうことなわけ。 続 09/01/31 |