慰安旅行に行こう 1.作戦会議 「と、いうわけで今年の真選組慰安旅行は海に決まった!」 ワアアァァァァァっ 「おやつは3kgまで。水着は必ず持ってくること。それと彼女連れてきていいですかって質問はなしだぞ、おらァァァ!」 ワアアァァァァっ 「なんだこのテンション」 行く前から海パン一丁で演説する近藤に、大歓声と共に拍手喝采を浴びせる隊士一同。 しかしかくいう土方も楽しみでないわけではなかった。隣では同じく今からシュノーケルと浮き輪を装備して片手にアヒルちゃんを持った沖田がそわそわしている。 「土方さん、後で新しい水着買いに行きましょうや」 「お前は彼氏と初デートにいく乙女か」 「かわいい部下に新しい水着を買ってやっても罰は当たりませんぜ。てーか買わなくても罰あたるから買ってくだせェ」 「……ったく、しょうがねぇな。一番安いやつだぞ。おもちゃやお菓子は買ってやんねぇからな」 これだから旅行は困る。つい財布の紐が緩んでしまうから。 しかしそれも旅行を楽しみにしている証拠なのかもしれない。 ――同日未明、万事屋に宇宙船が墜落した。 「よう、金時。元気にしちょるかー?」 「……お前が来る直前までは太鼓判付きで元気だったぜ」 瓦礫の海と化した目も当てられない有様の自宅を目にし、溜息をつく。弁償させるのは当然としてもこうしょっちゅう壊されていてはさすがに温厚な銀さんといえど心中穏やかではいられない。 「で、何しにきたの」 「おんしもいっしょに海に行くぜよ」 「は? 海?」 突然の申し出に、銀時は何のことかと首を傾げる。 しかし坂本は相変わらずの馬鹿笑いで一人だけやけに楽しそうに一人で話を進めていく。 「そういうことだから早く準備してもらわんとー」 「いやだから説明してって。5W1H使ってくれ」 「むぅ。おんしも物分りの悪いやっちゃのう。わしの別荘に友達連れて遊びにこいゆうとるんじゃ」 結局2Wしか使われていないがなんとなく内容は飲み込めた。 銀時は瓦礫の山を振り返り、酢昆布発掘作業に夢中な神楽と手伝わされている新八に声をかける。 「おい、お前ら。海行きたい?」 「え、海ですか? 別にいいですけどお金ありませんよ」 「ああそれなら坂本が家の修理代と迷惑料込みで払ってくれるから」 「あっはっは。金時わしがいつ迷惑かけたぜよー」 まあ新八は大体こういう返事だと思っていたので予想通りだ。しかし問題は神楽のほうである。神楽はわざわざ海に行っても日差しが駄目なのでどうせ見ているだけなのだ。行ったって楽しめるとは限らない。 「神楽はどうする? お前が嫌なら修理費と迷惑料だけもらっとくけど」 「行くアル。わたし泳げないけど人の金で飯食べるのは大好きヨ」 「いやお前いつも人の金で食べてるって」 まあとにかく、話は決まった。銀時はさっきから一人で楽しそうな坂本を振り返る。 「てなわけだから行ってもいいぜ」 「わーい。わたし海水飲みたいアル」 「神楽ちゃん、海水はだめだって」 こうして期せずして急遽万事屋も住まいを破壊され半ば強制的に海へ旅立つことになった。 2.当機はまもなく離陸します 坂本プライベートビーチへ向かう途中の機内にて。 「うっ、うぅっ、エリザベス……ぐすっ」 「……ヅラぁ、いい加減泣きやめよ」 高杉はいい年してしくしくと泣く桂を横目に見て、呆れまじりの溜息をついた。 大の男が人前で泣きじゃくっているのはやはり目立つのか、周囲の客の何人かがさっきからちらちらとこちらを見ている。指名手配犯である手前これは少々問題である。 「だって高杉、ここの人間はひどすぎる。どうしてエリザベスを荷物扱いするんだ!」 「ペット禁止だからだろ」 「エリザベスはペットだけど利口だから大丈夫だ!」 「いやでもほら、アレルギーの人とかいたら悪いし」 我ながら言っててそんな奴いねェよと内心つっこみたかったのだが、それでも桂はどうやら納得したらしい。昔から思っていたのだが、桂は少し変だと思う。 「アレルギーはたしかにあり得るか。しかしやはり俺は荷物と一緒にベルトコンベアに流されていったエリザベスを思うと……うぅっ」 そしてまたしくしくと泣き出す桂。もうそろそろ面倒になってきたので放っておこうかと思ったその時、機内にアナウンスが流れる。 『当機はまもなく離陸します。お客様の皆様、シートベルトをお閉めください』 離陸、という言葉に高杉の体を緊張が走り抜ける。無意識に手をぎゅっと握り締めた。 それまで泣いていた桂がふと濡れた面を上げる。 「高杉、俺を慰めてくれるのか?」 「え? あ、ああ。まぁな。一応同じ革命を志すものだし」 「そうか。高杉、てっきり飛行機が怖いのかと疑ってしまった俺を許してくれ」 「……はは、いいってことよ」 高杉はゆっくりと動き出した窓の外に視線をずらし、乾いた笑いを漏らした。 やがていつ落ちるとも知れぬ大きな鉄の塊は加速して、空へ飛び立とうとする。 高杉は無意識に桂の手を握り締める手に強く力を込めた。 3.部屋割り 遠路はるばる海までやって来た真選組。ロビーに整列して点呼を取り、近藤は皆の衆に向けて高らかに今後の説明をした。 「よーし、お前ら。これから部屋割りを決めるぞ。」 「ってなんで行く前に決めとかねぇかな」 土方のもっともらしい発言を近藤は爽やかにスルーする。 沖田はといえばロビーの売店が気になってうずうずしておりまったく話を聞いていそうにはなかった。 「いいかー、部屋はみんな二人部屋だ。くじ引きというのも考えたが、せっかくの旅行なので好きな人と組むようにー」 「野郎同士で好きな人ってのもさみぃよ近藤さん」 このつっこみもやはりスルー。土方は待ちきれず走り出そうとしている沖田の首根っこを捕まえた。まったく手がかかって困る。 「よーし。以上説明終わり。ペアが決まったやつは俺のところに鍵をもらいに来るように。あとは泳ぐなりナンパなり勝手にしていいぞ」 近藤がパンと手を叩くのを合図に、真選組隊士一同は列を崩して早速ペア獲得に乗り出した。仲良しグループが奇数で困っている者、一人の人間を取り合って険悪ムードになっている者、話をまったく聞かず海に向けて走り出したところを土方に殴られる者。こうして見ると隊の交友関係が一目瞭然である。 そんな様子を尻目に近藤は沖田のほうに向き直る。 「総悟、お前は俺と一緒の部屋でいいよな?」 「絶・対・嫌でさァ」 スタッカートで全力の拒絶。 てっきり二つ返事で了解がもらえるものと思っていたらしい近藤は、その言葉に驚愕の呻きを漏らした。 「な、なぜだ総悟! たまには俺と一緒に寝たっていいだろ!」 「だって近藤さん寝相悪ぃし、イビキうるせェんだもん。だから俺は土方さんと一緒に寝さしてもらいます。ね、土方さん」 「あ? ちょっと待てそこに俺の自由意志が介在する余地はねぇのか」 「ねーです」 ちょうど山崎を殴り飛ばしていた土方が振り返ると、沖田はにやりと笑みを浮かべてわざと口調を真似て言った。 そんな総悟に掴みかからんばかりの勢いで滝のような涙を流しながら迫る近藤。 「どうして俺じゃ駄目なんだ総悟ォォォォ!」 「だって土方さんと一緒が一番おもしろそーだし? あ、鍵もらいますぜ」 やんわりと泣き崩れる近藤をひっぺがしてカードキーを奪い取り、沖田はそのうち一枚を土方のほうに投げた。 「じゃ、俺荷物置いて着替えてきますんでお先にー」 そしてそれだけ言い置いて、手をひらひら振りながらトランクをがらがら引いてエレベーターに消えて行った。 まだ泣き崩れている近藤にペアが決まった隊士たちが鍵を寄越せと詰め寄ってくる。あらかたペアも決まったようで土方の仕事も終わり、大きく溜息をついた。 「……何これ。俺ってば旅行先で寝首かかれたりするわけ?」 旅行はまだはじまってばかりなのにどうしてこんなに疲労が激しいのだろう。 4.砂遊び さんさんと降り注ぐ太陽。海を走るそこはかとなく見覚えのある巨大犬。蛸を頭に乗せててふてふと歩くどこかで見たかもしれないきぐるみ。ミントンしているのをパブロフの犬の法則で砂浜に沈められた山崎。 平和だった。 さっきまで沖に連れ出した土方を海に葬るのに熱心だったどっかのバカはずいぶんと見覚えのあるチャイナ娘と砂浜で砂遊びに興じている。浜辺に寝そべって日光浴をしながら話に耳を傾けてみれば空飛ぶ要塞を造るつもりらしい。最初のほうは不可能だろうが、どうやら後半は少なくとも本気らしくやたら縦に細長い山が砂浜に造られている。 「ところで多串君」 幻聴は無視。 「なんでさっきから無視すんの。俺と多串君の仲じゃん」 そもそも人違いなので無視。 「おーい総悟君、神楽、ここの休日に見たくもない顔見ちゃって現実から逃避しようと試みてる可哀相な人がお昼奢ってくれるって」 「俺がいつそんなこと言ったよ、つーか言ってねェェェ!」 土方は起き上がりひたすらに存在を認めようとしなかった彼の存在の胸倉を掴む。沖田はまだしももう一人のほうの胃袋は宇宙空間に通じているそうなので(沖田談)冗談じゃない。ただでさえなぜか沖田の分まで旅行費用を払わされているので金がないのだ。しかも水着とか買わされたし。 「だって多串君が俺のこと無視するのが悪いよ。せっかく真選組の人が明らかに一人足りないから教えてあげようとしてんのに」 「一人足りない?」 銀時の言葉にはっとして、土方は視線をめぐらせた。さすがに沖まで泳ぎに行っている人間は見えないのでわからないのだが、言われてみればさっきまで砂浜に寝ていた人が一人いなくなっている。 「おい総悟、近藤さんどこ行った?」 ついさっきまで海に愛しい人を見つけてストーカーして白い砂を赤く染め上げんばかりに派手にやられて気絶していたはずなのに、気がつけばその姿はない。真選組局長をのした凶悪女はといえば何事もなかったように海辺の散策を終え、とっくに彼らが世話になっているというプライベートビーチへと戻っていた。まさか私有地に不法侵入を試みているのだろうか。 「安心してくだせェ土方さん。近藤さんならちゃんとここにいますぜ」 「そうそう。何一つ問題ないアル」 沖田の言葉に全身日除け対策の塊となったチャイナ娘も仲良く頷いた。 二人が指差すのはすぐ下の地面。もう少し正確に言うならば、空飛ぶ要塞建設予定地。 立ち上がって上からよく見てみれば、要塞の土台は人型をしていた。口も鼻もきれいさっぱり砂に覆われている。 「って何してんだよおいィィィ!」 慌てて発掘作業を行うべく駆け寄ろうとした土方の前にチャイナ娘が立ち塞がる。おもしろそうだと思ったのか沖田も一緒に立ち塞がった。 「お前何するネ。海に入れないからせめて日陰で砂遊びでもしようというわたしの夢をぶち壊す気なら容赦しないヨ」 「お前のささやかな夢のために局長殺されてたまるかァァァ!」 「土方さん、俺の遊びを邪魔するのはいただけねェよ」 「ってお前はこっち側につけよ総悟ォォォ!」 それから五分後、成り行きで巻き込まれた銀時を加えて土方&銀時VS沖田&神楽の異色タッグバトルが催された。 続 05/10/26-11/03 |