学園天国 1.飼育当番 うちの高校の飼育小屋には数種類の動物がいる。ウサギ、インコ、それと池に鯉。 そして最近新しい仲間が増えた。 校内をうろついていた野良犬が先日捕獲され、学校で飼われることになったのだ。 野良犬はポチと名づけられ、生徒のアイドルとしてその人気を独占している。 「って勝手にモノローグつけてんじゃねェェェェ!」 しかしポチのその言葉を聞いてくれる人間は誰もいない。なぜなら犬の言語など誰も理解できないからだ。 「あー、この犬ポチって言うの。かわいいかわいい」 「俺が捕まえたんですぜ」 そう言って沖田は担任の銀八に胸を張ってみせた。 「いやだから俺さっきまで一緒に授業受けてただろうが! 全然ここで飼われてねぇよ!」 「ほら、ポチお手。……沖田が手を差し出すと、ポチは舌を出してハァハァ言いながらその手を網から伸ばして沖田の手のひらに乗せた」 「だからモノローグやめろって言ってんだろ総悟ォォォォ!」 「お手しないじゃん」 「ちょっと照れてるだけでさァ」 「つーかこれ教師として放っておいていいのかよ! 教育委員会に訴えてやる!」 「ポチは散歩にでも行きたいのか網を両手で掴んでガチャガチャと揺さぶるが、ついさっき沖田がゴリラでも壊せない強力な鍵を装着したため犬ごときが出ることはできなかった」 「総悟君、ポチはこのまま入れておいてね。なんか出たら教育委員会に訴えるつもりらしいから」 「わかりやした。先生の頼みとあっちゃあ生徒は断れねーや。さ、授業始まるから行きやしょうぜ」 「すいませんお願いトイレ行きたいから出してェェェェェ!!」 「元気のいいポチの鳴き声は学校中に木霊するが、もう無駄吠えも聞き慣れたため誰一人として様子を見にやって来るものはいなかった。そして沖田と銀八もにこやかに談笑しながら予鈴と共に校舎の中へ消えて行くのだった」 2.昼休み 昼休みになると教室に人はいなくなり、誰かが閉め忘れた窓の外からは生徒たちのはしゃぐ声が届く。 それでも唯一外に出ず昼休みの間中ずっと教室にいるのは、高杉とそれに付き合ってやっている銀八だった。 「高杉ぃ、お前外で遊ばないの」 「いいんだよ俺は」 無意識のうちに見ていた窓の外からどこかふてくされたように視線を外す。 銀八は高杉の前の席の椅子に座って、頬杖をついてそれを見ていた。 「だいたい昼休みになると坂本はどっか行っちまうし、ヅラの奴は後輩のエリザベスといちゃつくのに忙しくて俺の相手なんかしたくねぇだろうよ」 担任の銀八から見ても高杉は友達がそれほど多くはない。どちらかといえばクラスに必ず一人はいる、集団に溶け込めない生徒だった。そんな高杉が言葉をかわす数少ない友人がこの坂本と桂なのだが、あまりに個性的過ぎるのかいまいち協調性に欠けた。 だからいつも昼休み、高杉は教室にひとりでいる。 外で一緒に遊ぼうと高杉を誘いに来てくれる人はいない。ただここからふてくされたような目で窓の外を見ているだけだ。 「でもさ、高杉には俺がいるじゃん。こうして毎日お前に付き合ってやってるんだよ先生は」 「あんたは教師だから俺みたいな問題児から目が離せねぇだけだろ」 高杉は銀八を片方の目で睨みつける。しかしもう片方、眼帯で覆われたほうの目はまったく違う色をしているのかもしれない。そんなことを思いながら、銀八は高杉の頭をくしゃりと撫でた。 「違うよ。先生はお前が立ち上がるのを待ってんだよ。たまには一緒に外で昼寝でもしようぜ?」 誰かが高く放り投げたのか、三階の校舎の窓をボールが通り過ぎていく。そしてすぐにそれはもといた大地へと帰っていく。しかし銀八も高杉もそんな外の様子になど気がつかなかった。 ボールが天から地上へと帰るまでの間沈黙は続き、たぶんボールが無事に地面にバウンドしただろう頃に、ようやく高杉は小さく頷いた。 「よし、じゃあ話は決まりだな」 銀八は腕時計にちらと目をやり、それから高杉に向き直る。 「だから早く牛乳飲んで。先生は給食片付けたいんだよ」 「嫌だ。それとこれとは話が別だ」 「いやいや別じゃないだろこれは」 毎日の恒例行事の一つとなってしまった高杉と銀八の牛乳をめぐる舌論は、今日こそ決着がつくのだろうか。 予鈴まであと15分。 3.英語の授業 「はーい。それでは今から隣の席の人を英語で紹介してもらいます。じゃあまず神楽、新八の紹介ね」 「任せるアル!」 元気よく返事をして、神楽は椅子から立ち上がる。そして声高らかに叫んだ。 「イット、イズ、ア、メガネ!」 「ちょっと待ておいこらァァァァ!」 机を両手で叩いて異議申し立てに立ち上がる新八。しかし誰も味方につくものはいなかった。 「はい、合格。じゃあ次総悟君いってみようかー」 「ってあんたあれ訂正しろよ! 全然あってねェよ!」 「何言うネ。お前はメガネ以外の何者でもないヨ」 まだ揉める二人を無視して授業は進む。 堂々と昼寝をしていた沖田は隣の席の土方につつかれてアイマスクを外し、さっきまで一時間目だったのにもう給食が近いことに気づいた。今日も一日が短い。 「あー……何、隣の席の人の紹介?」 「そうそう。俺を英語で紹介すんの」 「……めんどくせ」 なぜか騒がしい通路を挟んで隣の席(神楽、新八ペア)を首を傾げて見やり、まだ眠い頭で沖田はぼんやり英文を組み立てた。 「えっと、ヒー、イズ、マイ、ボーイフレンド」 それだけ言うと机の上に崩れ落ち、再び惰眠を貪りはじめる。もちろんアイマスクも忘れず再装着する。 いつの間にか教室は沈黙していた。 土方が胸倉を掴み上げて揺さぶるが、もう起きる気配はない。完璧に眠りに落ちている。 「ちょっと待て総悟、寝る前に訂正してけェェェェェ!」 ボーイフレンド→○ 男の恋人 × 男友達 銀八は無言のままチョークで黒板にそう書いた。注目を集めようとパンと手を叩いたのを合図に教室に喧騒が戻ってくる。 「はい、じゃあここ次のテストに出すから。多串君は昼休みに先生のところに来るように。じゃあ次、定春君やって」 「ワン」 「だからお前の本体はメガネでその体は飾りだろメガネ」 「全然違ぇよ! ちょっと先生この子がひどいんですけど!」 「頼むから総悟君起きてェェェ!」 今日も3年Z組はいい加減な授業が行われており騒がしかった。 続 05/11/20-26 |